2つの相反する概念が共存する。五月女哲平『GEO』展フォトレポート。
〈art cruise gallery by Baycrew’s(以下、art cruise gallery)〉では現在、アーティストの五月女哲平さん(以下、五月女)の作品展『GEO』が開催中。変形キャンバスに立体物、大型絵画と多彩なバリエーションの作品で構成される本展示の見どころとは?
地球に根ざした概念。
2005年に東京造形大学美術学部絵画科を卒業。2007年の初個展からキャリアをスタートした五月女は、絵画作品を中心に立体、写真、映像などを織り交ぜた、枠にとらわれない作風を確立してきた。そして現在も、絵具の積層構造の考え方を展開しながら、アクリルや写真、ガラス、シルクスクリーンなどの異なるメディウムを介在させた作品制作を続けている。
また、コミッションワークにも精力的に取り組んでおり、これまでに、バンド・KIRINJIのシングル『時間がない』、アルバム『愛をあるだけ、すべて』へのアートワーク提供をはじめ、竹中工務店の季刊誌 『approach』の表紙や、ファッションブランド〈semoh〉とのコラボレーションワークなど、活動の幅は多岐にわたる。
関連特集『歪な線、鮮やかな音像。対談、五月女哲平 × 堀込高樹(KIRINJI)』はこちらから。
本展『GEO』は、五月女による既存の作品と、本展のための描き下ろし作品とが混在した作品展である。つまり、共通したテーマのもとでキュレーションされた作品群ではないが、〈art cruise gallery〉のアートディレクターを務めるおおうちおさむは、五月女の作品たちからある2つの概念を読み取り、本展を『GEO』と名付けた。
ひとつは五月女の作品の特徴でもある、幾何形体を意味する“Geometric”。もうひとつが“Geogryph(地上絵)”、“Geodedic(測地)”、“Geology(地質学)”などの、地球に根ざした概念。ミニマルな要素のみで構成された絵画は極限まで情報が絞り込まれているように見えるが、無機質というよりはむしろ有機的。人工的というよりはむしろ自然の原理を想起させる。
キャンバスに積層する、絵具と時間。
変形キャンバスに立体物、大型絵画と多彩なバリエーションの作品で構成される本展だが、実際に現地で作品と対峙すると、すべての美術作品に共通して言えることではあるが、画面上で見るのとではずいぶんと印象が異なることに気が付く。
幾何形体で構成されたグラフィカルな絵画たちは、一見してコンピューターグラフィックのように見えなくもないが、至極プリミティブな手法でアウトプットされている。たとえば、気持ちがいいほどまっすぐ描かれているように見えるラインは、マスキングテープや定規などを用いずにフリーハンドで描かれている。そのため、よく見るとわずかな揺れや歪みを確認することができるのだが、これは、絵画に身体性を加えるための、作家による意図である。
また、本展の多くの作品はキャンバスに描かれており、キャンバスという素材の性質上、絵の具を用いて布に染色していくように絵画が構築されている。そのため、キャンバスのフチには、塗り重ねられた色の履歴(の一部)が滲む。平面的に見える塗りの部分も、実は複数色の絵具を積層した“結果”の色なのだ。これは、否が応でもそこにかかった時間を想像させる装置となっているだけでなく、見えないものを想像させる、ある種の仕掛けとも言えるだろう。
デジタルアートとはまた異なる鑑賞感を得られる五月女哲平『GEO』展は、10月14日(月)まで〈art cruise gallery〉で開催中。スマホやPCには写し出されない、アートの本質や面白さを、是非とも虎ノ門で体感してみていただきたい。