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ART | 2024.2.6

押し付けないし、決めない。〈art cruise gallery〉が描く“多くを語らない”ギャラリー像。

〈SELECT by BAYCREW’S〉の一角に、BAYCREW'Sとしては初となるアートスペースがオープンする。その名も〈art cruise gallery by Baycrew’s/アートクルーズギャラリー バイ ベイクルーズ〉。“アートとファッションの交差する場”をコンセプトに、古今東西、有形無形の美しいものを並列に取り上げていく、このギャラリーの存在意義と展望について。クリエイティブディレクターを務めるおおうちおさむさんの胸の内を聞かせてもらった。

 

Photo: Daiki Endo / Text&Edit: Nobuyuki Shigetake
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業界のセオリーに背きたい。

「アート業界って、すごくいびつなんですよ。外側からは華やかで、羽振りがよく見えているかもしれないけれど、権威的なものだったり、不文律のようなものがたくさん渦巻いているわけです(笑)。客として展覧会に足を運んでも、ギャラリー側や主催者側が真摯でなく、マーケットを甘く見ているんだろうな、と思うようなこともしばしばあります」

故・田中一光デザイン室在籍時に、無印良品、資生堂、〈イッセイ ミヤケ〉、〈サルヴァトーレ・フェラガモ〉など、企業やブランドのグラフィック、ポスター、展覧会の空間デザインを手掛け、独立後、長野県松本市にて自身が立ち上げた「マツモト建築芸術祭」の総合プロデューサーも務めるおおうちおさむさんは、昨今のアートシーンを見渡してそう話す。

「芸術祭の運営をするなかで、アートがいわゆる“アート枠”のような、非日常の特別なものとして扱われていることを痛感しました。そのような考え方には日頃から異議を申し立てる活動をしているところですが(笑)、もちろん、富裕層が投資目的で売買したり、それを生業としている企業があったり、さまざまな歯車のなかでアートマーケットが成立していることは重々理解しています。ただ僕個人としては、アートって“市井の人々の暮らしを明るくするための装置”であってほしいんですよね。こたつでみかんを食べながら眺められるような、日常的なものであったらいいなって。少なくとも、僕が関わる展覧会やギャラリーは、過度に作品を神格化する見せ方にならないよう、努めていきたいと思っているんです」

BAYCREW'Sとしては初のアート業態となる〈art cruise gallery by Baycrew’s(以下、art cruise gallery)〉のクリエイティブディレクターとして、ギャラリーのコンセプト設計からネーミング、展覧会のグラフィック作成や空間デザインまでをおこなうなど、おおうちさんの担当範囲は多岐に渡る。就任した理由は「挑戦できそうだと思った」からだそうだ。

「お声がけをいただいて、率直にそう思ったんですよね。〈art cruise gallery〉の最大の特徴はやっぱり、アパレルの事業会社が立ち上げたことです。つまり、開業してしばらくはしがらみの外側にいることができるし(笑)、いわゆる定石に背くことだってできる。アート業界から見るとBAYCREW'Sって紛れもなく新参者ですから。アート畑の人たちは考えもしない、突飛なことだってなんてことない顔をして(笑)トライできそうだなと。その価値って本当に計り知れなくて、長くアート業界にいる僕からするととてつもなく尊いことに思えたんです」

BAYCREW'Sがアート事業に乗り出すことに関しては「少しも不思議に感じなかった」と話す。

「BAYCREW'Sのメインコンテンツはファッションかもしれませんが、洋服なんて、言うまでもなくアートじゃないですか。家具も、飲食も、美容だってそう。人によって作られた、人の生活を豊かにする創作物は、すべてアートとしての性質をもっていると僕は思いますね」

鑑賞者の主体性によって、無限の編集が生まれるギャラリー。

初回の展示は、葛飾北斎による全15編の絵手本『北斎漫画』をフィーチャーした『PLAY w/ HOKUSAI(プレイ ウィズ ホクサイ)』。〈SELECT by BAYCREW’S〉のグランドオープン日である2024年2月29日(木)から4月14日(日)までの期間で開催される。

「一番最初に何を展示するかはギャラリーにとってすごく大切で、『このギャラリーはこういうキャラクターである』を提示する場でもあります。BAYCREW'Sって僕のなかでは、ファッションや飲食、家具を通して幅広く全世代の人たちの暮らしを豊かにしている企業、というイメージがあって。そういった僕のなかのBAYCREW'S像と、〈SELECT by BAYCREW’S〉の虎ノ門というロケーションとを照らし合わせた際に、日本の浮世絵師が描いた、世界中で高く評価されている“大衆芸術”をフィーチャーすることは、すごく意味のあることだと思えたし、初回展示である必然性も見出すことができました」

『北斎漫画』は、大名から庶民にまで親しまれた、江戸時代のベストセラー。発刊当時は北斎の弟子たちにとっては絵手本であり、大衆にとっては生活の教科書、あるいは雑誌のような存在であったとされている。数あるアート作品の中からこの『北斎漫画』をセレクトした理由にも、おおうちさんの“アート観”が如実に反映されている。

「現代でいうところの大衆芸術、暮らしに深く紐づいたアートってどういうものだろう? と考えたときに、真っ先に頭に浮かんだのが『週刊少年ジャンプ』でした(笑)。冗談のように聞こえるかもしれませんが、本気ですよ。あのマンガ本が、どれだけの人たちの人生を照らして、どれだけの人たちの人生の教科書になっているか。僕もマンガからたくさんのことを学びました。そもそも日本のマンガは世界的に見ても、その技術力や構成力の高さからアートとして扱われていますしね。300円足らずで買えて、小学生からおじいちゃんまでが等しく楽しめるのに、ですよ。でも、アートってすべからくそうあるべきだと思っています。『北斎漫画』にも、そのポテンシャルを多分に感じとっていますね」

小難しさもなく、崇高さもない。感覚的に楽しむことができる『北斎漫画』を用いた空間デザイン=セノグラフィーについては「多くを語ることなく、鑑賞者の主体的な行動によって、その人なりの編集が新たに、かつ無限に生まれて、何時間でもいられる空間を作りたい」と話す。鑑賞者の自由度が高い展示空間を生み出す理由は、自身の過去の鑑賞経験からの影響が大きいそうだ。

「会場には全80点の作品が並びますが、膨大な数の作品から、言語化された情報に基づくことなく、グラフィックデザイン的な観点から見て「ユーモラスだな」と感じたものを、僕の主観でセレクトしました。というのも、ホワイトキューブのギャラリーや美術館って、鑑賞方法まで指定してくることがあるじゃないですか。矢印かなんかで順路が記されていて、過剰に親切なステートメントが各ブロックの壁面に書かれていて「これはこうやって観るんですよ」なんて、押し付けられているような……あれが僕、すごく苦手で(笑)。自由に観させてくれよって思っちゃう。実のところ、それぞれの作品のリレーションのようなものは自分のなかでは芽生えてきているんだけれど、そんなのがギャラリーの入り口のステートメントに書いてあったりしたら、バイアスがかかっちゃうでしょう。だから、あえて言語化しないことにしたんです」

おおうちさんが制作したギャラリーの模型。L字ユニットの配置や作品の並びをこの模型上で確認する。
50分の1の縮尺で作られており、サイズにもこだわりが。「できることとできないことがあるこのサイズが、自分の中ではちょうど良いんです」。

これまでに数多くの展覧会、美術展の制作にこの「セノグラフィー」と呼ばれる方法論で挑んできたおおうちさん。方程式こそないが、〈art cruise gallery〉におけるスタンスも大きくは変わらない。

「そもそも美術作品は観る人の主体性と感性によって進化するもので、展示空間が作品を進化させるわけではない、ということをまず最初に示す必要があるな、と思ったんです。あくまでも主役は作品で、空間は必要以上に雄弁であってはならない。これは、僕が展覧会をディレクションする際のモットーではありますが、〈art cruise gallery〉においても等しくこの考え方は当てはまりますし、ギャラリーとして先々を見据えるうえでの基本的な指針になるでしょうね」

マーチャンダイジング、作品販売に関しても、BAYCREW'Sがファッションカンパニーであることの利点を活かしたいと意気込む。

「手頃な価格で手に入れられるトートバッグやキーホルダーなどのお土産、Tシャツなどのプリントモノもいいですが、それだけで手を打つわけでなく、しっかり時間とコストをかけたモノづくりをしていきたいですよね。会社としてアパレルの生産背景、コネクションがあることが、よそのギャラリーや美術館と〈art cruise gallery〉との決定的な違いですから。作品も、一部購入できるようにしています。普段から洋服にお金をかけている人が、それこそ洋服を買うような感覚で絵画やオブジェを買って帰ってくれたら嬉しいですね。もちろん、僕も『北斎漫画』はいくつか買う予定です(笑)」

『PLAY w/ HOKUSAI』
会期:2024年2月29日(木)〜2024年4月14日(日)
場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワ ー3F SELECT by BAYCREW’S 内