SELECT by BAYCREW’Sのキーマンたちに聞く「20の質問」。おおうちおさむ/アートディレクター、セノグラファー、グラフィックデザイナー
本企画『PEOPLE』では、<SELECT by BAYCREW’S>のキーマンたちに20の質問を投げかけ、彼らの好きなモノやコト、リアルな気分を伺います。
今回は、“アートとファッションが交差する場”としてオープンする<art cruise gallery by Baycrew’s>のクリエイティブディレクターを務めるおおうちおさむさんの事務所へ。
Q1. 座右の銘は?
A1. 「個性は消しても消せないものだから、わざわざ出す必要がないのでは?」というマルタン・マルジェラの言葉を40歳過ぎた頃からその通りだなと思うようになって、これに気づくとすごく心にゆとりができて、デザインに取り組むスタンスが変わりました。
Q2. 趣味は?
A2 .(車の)運転と服探し。最近は〈エレナ ドーソン〉というブランドが気になっています。今日着ているジャケットもそれです。
Q3. 今、ハマっていることは?
A3. 今も昔も仕事です。
Q4. 日々の必需品は?
A4. 腕時計。今日は打ち合わせがあったので、オール黒でシックな〈フランク ミュラー〉の腕時計《クロコ》で出かけました。普段は、フランク・ミュラー氏の共同経営者の息子が手掛ける〈クストス〉のイエローのラバーベルトの腕時計を愛用。あとは、〈パネライ〉のものがいくつか。時間がわかれば十分なので、機能はあまり気にせず、好みのデザインのものをその日の気分で着けています。
Q5. 勝負メシは?
A5. “メシ”じゃないですが、事務所近くにある〈ネムコーヒー&エスプレッソ〉のラテは毎日飲んでいます。一日3杯は注文するので、僕のカラダはほぼカフェラテでできているようなものです(笑)。
Q6. 愛車は?
A6. 〈ポルシェ〉のSUV《カイエンターボ》。漫画『サーキットの狼』を見て育ったスーパーカーブーム世代なので、〈ポルシェ〉は小さい頃から“憧れ”として刷り込まれていました。《カイエンターボ》は、2012年ごろからの愛車です。たまたま街中を歩いていた時に見かけて、「何あの車?」と胸打たれた衝撃のあまり、そのままの足で銀座のショールームに行ってローンを組んだ思い出深い一台です。ノルディックゴールドという配色も気に入っています。
Q7. これから買いたいものは?
A7. 仕事の最後はデザイナーではなく、アーティストとして終わりたいんです。それに専念できるアトリエが欲しい。場所は、奄美大島とか。デザイナーとしての仕事は、まず出来事があって、その依頼が来て、そこに対して僕がいるってことがほとんどなので、自分がゼロから生み出したものを残していきたい。まだデザイナーとしてもやるべきことはあるので、せいぜい140歳くらいまでには実現したいと思います(笑)。
Q8. これから始めたいことは?
A8. サーフィンをやりたい。サーファーって、50、60歳になっても真冬の朝方に波乗りをして出勤するって聞くじゃないですか。どれだけ楽しいんだろうと思って、それを知らずには死ねない。やるからには、目標はオリンピック出場! 誰に言ってもバカにされますが、僕は本気です。
Q9. 落ち着く場所は?
A9. nano/nano graphicsのオフィス。ワーカホリックなんですよね。思いついたら、すぐ手をつけられる。そうしていたいから、オフィスにいる時間が最も落ち着きます。
Q10. いちばんの宝物は?
A10. 独立から22年積み上げてきたnano/nano graphicsが宝物です。好きなものは、この空間にぜんぶ集結しています。
Q11. 休日の過ごし方は?
A11. 休日ってなんですか(笑)。大学を出て、田中一光デザインオフィスに入ってから休日という概念がないですね。唯一、犬を撫でている時は“無になれる”。
Q12. センスが良いと思う人は?
A12. あまり考えたことがないですが、キアヌ・リーブス。
Q13. 好きな映画は?
A13. いち作品を挙げるのはすごい悩みましたが、『The Piano』(1993年/ジェーン・カンピオン監督/フランス、ニュージーランド、オーストラリアによる合作)。劇中で、あるべきではないものがそこに存在する。そんな演出が好きで、海辺にピアノが置かれたワンシーンでノックアウトされました。同じ理屈で、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』で馬にデロリアン(劇中に登場する車型タイムマシーン)を引かせているシーンも大好き。
Q14. 好きな写真集は?
A14. Kuehn Malvezzi (写真カンディダ・へーファー、Buchhandlung Walther König刊)。
Q15. 好きな音楽は?
A15. コクトーツインズ。
Q16. 好きな芸術家は?
A16. ドナルド・ジャッド。めちゃくちゃシンプルな鉄製の箱が代表作ですが、機能を剥奪した作品なのに、それが家具なのか、棚なのか、テーブルなのか、実生活での使い道が見えてくるところがすごい。常日頃から僕が否定している、ホワイトキューブでの展示の方が映える作品なので、ある意味、自分に課題を与え続けてくれる芸術家でもあります。
Q17. デザイナーを志したきっかけは?
A17. 機動戦士ガンダムと出会っていなかったら、デザイナーを目指してないです。漫画の世界観なりにモビルスーツの理論がちゃんとしていて、造形も美しくて、それに憧れて美術の道に進みました。
Q18. アートで照らしたい“人・もの・こと”は?
A18. 「なんの変哲もない日常」を照らしたい。ものの価値って人が決めるじゃないですか。そうやって人が決めた価値の蓄積が博物館だったりするわけで、だから今飲んでいるペリエ(炭酸水)も1000年後は博物学なんです。視点ひとつで目の前の当たり前が素晴らしい価値のあるものになる。そういったものごとに気づきを与えるのが我々の仕事です。衣食住の分野で日本人の暮らしに寄り添ってきた〈ベイクルーズ〉が運営するギャラリー<art cruise gallery by Baycrew’s>は、そのトリガーになれるような場所にしていきたい。
Q19. 最も影響を受けた人は?
A19. 師匠の田中(一光)先生です。田中一光デザイン室で働いていた時代は、スタッフ総出で朝食の準備をするところから、その日の仕事が始まるのが慣わしで、週末も長期休暇も田中先生と寝食を共にしてきました。田中先生との何気ない会話で、食材について聞かれた時にも受け答えできるよう食材辞典は必須で、ほかの話題も準備を怠ると、それを見透かされたかのように会話が終わってしまうんです。あと、服装にも厳しい方でした。そんな環境で仕事の基礎を叩き込まれて、デザインはもはや礼儀作法に等しいものであることを学びました。経験を積んだ今、振り返ってみても、あれほどデザインの王道を豪速球で投げられた人はいない。しかも、それでかっこいいから無敵でした。今も胸を張れるデザインができた日には、先生の墓参りに行っています。
Q20. 今、興味関心のある地域は?
A20. 民藝の街、長野県松本市。街を歩いていると、まだ重要文化財に指定されていない素晴らしい建物がたくさんあって、そういった建物を主役にアートを展示する「マツモト建築芸術祭」を、たまたまご縁があって主催しています。例えば、明治時代の松本城にまつわるものが発掘されたら、必ずしも当時を模した展示にする必要はなくて、むしろ我々が現代なりの視点や解釈でどういう価値をつけるかということの方が大事。そういった主義主張や発想を自由に発信できるよう、あえて民間だけで運営を続けています。長野県松本市を、アートの新しい価値を広げていく地にしていきたい。