最適な1台に、自ら手を加え、乗り続ける。〈Circles〉が東京から発信するこれからのライドカルチャー。
SELECT by BAYCREW’Sの一角にオープンするのが、一人ひとりに沿ったカスタマイズ自転車を中心にさまざまなパーツやアイテムを扱う自転車店〈Circles/サークルズ〉。
独自の哲学に基づき国内のライドカルチャーを牽引してきた彼らの、名古屋にある本拠地を訪ねた。
完成車はもちろん、オリジナルや海外ビルダーによるフレーム、多彩なパーツやアクセサリー、アパレルを取り揃える〈Circles〉。体のサイズを測り、一人ひとりに合った寸法のフレームやパーツを組んでいくバイクのカスタマイズを行ったり、パンク修理やハンドルに巻くバーテープの交換などのメンテナンスを学べるスクールを行ったり。あるいは専門工具を常備したシェアピットを解放したり。ここで提供されるサービスは、単なる自転車店の範疇に留まらず、実に幅広い。
「自転車は自分で直すことができるし、技術を学べば一から組み立てることだってできる。ただ所有するだけでなく、その時点から、ものと長く付き合っていくライフスタイルやカルチャーを提案したいなと考えています」
そう話すのは代表の田中慎也さん。もともとファッション業界で働いていた彼が〈Circles〉を立ち上げるに至った背景には、20代の3年間をアメリカ・シアトルで過ごした経験が大きく影響している。
「当時のシアトルはIT企業が台頭する以前で、今以上に文化的な空気が色濃いエリアでした。DIYでスピーカーを作る人、小説を書く人、自転車を作る人……、そこら中に色んな意味で手を動かす人がいて、彼らはものが壊れても自分で直す。その風土に刺激を受けました。もともと自転車は好きでしたが、本格的にマウンテンバイクに乗り始めたのもその頃です。長く使い継いでいける自転車の魅力を再認識し、生業にしたいと考えるようになりました」
帰国後は自転車店で経験を積み、2006年に地元名古屋で〈Circles〉を開業。以来田中さんが大切にしているのは、昔ながらの“テーラー”のようなものづくりの姿勢だ。
「オーダースーツを仕立てる時のように、時間をかけて人と向き合い、ものを作ることです。フレームであれ、塗装であれ、お客さんと対話して最適な提案をする。そして、以降のメンテナンスにも、スクールやピットサービスを通じて継続的に関わる。人とものとの長い付き合いを促すのはもちろん、僕ら自身もお客さんと長く関わっていきたいです」
そしてその姿勢は、彼らが多彩なライドイベントを開催することにも反映されている。
「街中のチェックポイントを回りながらクイズを解くオリエンテーリング企画や、お店から公園までサイクリングをしてBBQをするというゆるいものまで。これまで様々なライドイベントを行なってきました。開業から17年を迎え、最近では、初期から参加してくれていた人たちが子供を連れてイベントに参加してくれることも。世代を超えたコミュニティへと成熟しつつあるのは嬉しいことです」
他のアクティビティと掛け合わせて自転車を“遊ぶ”ためのきっかけに。
名古屋を拠点に飛躍してきた〈Circles〉にとってSELECT by BAYCREW’Sへの出店は初の東京進出。
「東京は多様性が確立している街。名古屋とは異なる反響がありそうで楽しみです」と田中さんも期待を寄せる。
「ただ、これまでのやり方を変えようというつもりはありません。名古屋で続けてきたように、接客やライドイベントを通じて、僕たちの提案したいライフスタイルを徹底的に伝えることで、お客さんと長く付き合っていきたいですね」
乗る楽しさと使い継ぐ楽しさ。彼らが自転車を通じて、その独自の価値観やカルチャーを伝え続ける先には、一つのビジョンがある。 「もっと日本に、真剣に遊ぶ人を増やしたいと思っています。遊ぶことで人生の幅が広がるし、仕事へのモチベーションも上がる。自分のために時間を使う人が増えることで、ゆくゆくは日本経済にいい循環を生むことにもつながると思うんです。そのきっかけを、釣りやキャンプなど、他のアクティビティとも組み合わせやすい自転車が提供できればいいなと。自転車って便利で楽しいものだなと思ってもらえたら、しめたもんですよね」