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ART | 2024.6.12

虎ノ門で新旧アートめぐり。

虎ノ門周辺にはアートを楽しめるスポットがたくさん。歴史と伝統を守りながらも新たなカルチャーとともに変化していく街のように、アートもまた、新旧楽しめるのが虎ノ門の魅力。ここでは、虎ノ門ヒルズ駅から出発して、アートをめぐる6スポットをご紹介。意外と知らない穴場があるかも?

 

トップ画像は、ル・コルビュジエ「直角の詩 表紙」(リトグラフ、1955)大成建設所蔵

Text: Shiho Nakamura / Edit: Shigeo Kanno
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アートめぐり イラスト

1
清川あさみのステンドグラスは、虎ノ門ヒルズ駅構内に。

東京メトロ日比谷線の〈虎ノ門ヒルズ駅〉に降り立ったら、改札を出るその前に! ぜひ見ておきたいアートがある。それは、地下2階の改札内コンコースに設置されたパブリックアート。現代アーティストとして活躍する清川あさみが原画・制作監修を手がけた、ステンドグラスによる大型作品《Our New World (Toranomon)》だ。

3,000枚以上のカラフルなガラスが使われた作品は、角度によって見え方が異なる仕掛けがほどこされ、さまざまに表情を変えるのが面白い。この作品では、抽象的な模様が、時とともに変遷する都市の風景のようにも、行き交う人々の様子や、人の心の移り変わりのようにも見えてくる。忙しく通りすぎてしまいがちな駅の地下空間で、LEDによって照らし出され、“希望の光”を思い出させてくれるかのように不思議な存在感を放っている。

Our New World (Toranomon)
高さ2.7メートル、幅6メートル。清川あさみがステンドグラス職人と協働した作品は、全部で243種類のガラスが使われている。画像提供/東京メトロ

2
驚きと感動に溢れるティファニーの“ワンダー”な世界へ迷い込む。

まず足を運びたいのが、虎ノ門ヒルズ駅直結のステーションタワー45階にある話題のスポット〈TOKYO NODE〉で開催中の『ティファニー ワンダー』展。1837年の創業以来、ティファニーが生み出してきた数々のジュエリーから、世界初公開となる180点を含む約500点が一堂に会すめくるめく世界へ。とくに、20世紀を代表するフランス人アーティストで、ティファニーの伝説的デザイナーとして知られるジャン・シュランバージェのアーカイブには惹き込まれる。シュランバージェが暮らした、カリブ海グアドループで出会った黄色いオウムに着想を得てデザインし、のちにティファニーのアイコンとなった「バード オン ア ロック」コレクションのファンも多いだろう。その彼が手がけた最初の「バード オン ア ロック ブローチ」はなんとも愛らしく、実物が見られるなんてなんとも貴重。植物や生き物を愛し、自然の造形美から着想して表現することにこだわったというシュランバージェが、小鳥に姿を変え、会場に幸福を届けにきたようにも感じる。

さらに、映画『ティファニーで朝食を』が流れる映画館のような部屋や、ラグジュリアスな壁面を演出するファブリックなど、ティファニーの世界観を体現するような空間のディテールにはハッと息をのむ時間の連続。会場を出た後も、驚きと感動に詰まった“ワンダー”の余韻に浸ることになりそうだ。

『ティファニー ワンダー』展
『ティファニー ワンダー』展

3
マーティン・パーのファッション写真で気分を盛り上げて。

続いて、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの3階へ。写真家マーティン・パーの個展『FASHION Faux PARR(ファッション フォー パー)』が開かれているということで、目指すは、SELECT by BAYCREW’Sの中にあるギャラリー〈art cruise gallery by Baycrew’s〉。1952年イギリス生まれのマーティン・パーは、どこか違和感を感じるような構図と極彩色によって、ドキュメンテーションという視点から日常の風景を切り取り続けてきた。社会に潜む格差を炙り出すようなモチーフには痛烈なアイロニーが漂うと同時に、独特のユーモアがちりばめられているのが魅力だ。

写真集コレクターとしても知られるパーにとって、本をつくることは特別思い入れが深く、現在までに刊行した作品集は100冊を超えるというから驚きだ。アート界から高く評価される一方で、30年以上にわたり『Vogue』をはじめとするエディトリアルも多く手がけてきたパーだが、今年4月に発売された『FASHION Faux PARR』は、意外にも初めてファッションにフォーカスした写真集となった。同展は、この写真集から16点の作品で構成。作品はもちろんなのだが、展示室の壁の色の組み合わせがとっても可愛くて、気分を盛り上げてくれる。写真展を見れば、SELECT by BAYCREW’Sでのショッピングももっと楽しくなりそう!

FASHION Faux PARR
Photo/Kazushige Kochi

4
時を忘れる美しい建築で、日本の前衛陶芸の面白さに出会う。

ここで、少し趣の異なる美術館を紹介したい。虎ノ門ヒルズ駅から歩いて8分ほどの場所にある〈菊池寛実記念 智美術館〉は、現代陶芸のコレクター・菊池智(1923-2016)が設立した美術館。高層ビルに囲まれていることあって意外と知られていないかもしれないが、ぜひ一度は訪れてみてほしい。

足を踏み入れると、実業家・菊池寛実(菊池智の父)が所有していた敷地に約20年前に建てられたビルと、大正時代から受け継がれる西洋館や日本庭園が。まるで新旧の時代が響き合うように融合し、都心にいることを忘れてしまうほど穏やかな時間が流れている。そして建物の内部では、細部までデザインにこだわったことが感じられる美しい空間に、うっとり。とくに地階の展示室へとつながる螺旋階段は、ガラス作家の横山尚人が手がけた手すりが用いられ、まるで階段自体が作品のよう。

展示室では現在、企画展『走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代』(〜6月23日。後期日程は7月5日〜9月1日)が開催中。1948年に京都の陶芸家によって結成され、様々な作家が入れ替わりながら50年ほど続いた「走泥社」の歩みを紹介している。「この作品が70年前に!?」と、戦後日本において「器」という形にとらわれずに陶芸の創作を行った八木一夫、山田光、鈴木治をはじめとする、驚きの世界観が広がっている。日本の陶芸家が生んだ、焼き物による自由で美しい表現の面白さに出会ってみたい。

走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代

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建築家ル・コルビュジエの画家としての情熱。

次に向かうは、〈菊池寛実記念 智美術館〉から徒歩2分のところに位置する〈大倉集古館〉。明治から大正期にかけて活躍した実業家・大倉喜八郎(1837-1928)が設立した現存する日本最古の私立美術館だ。日本を含む東洋の古美術品から近代絵画まで、国宝3点、重要文化財13点を含む2500点もの美術品を収蔵するとても貴重な美術館である。

6月25日から開催されるのが、『大成建設コレクション もうひとりのル・コルビュジエ〜絵画をめぐって〜』。20世紀を代表する建築家、ル・コルビュジエのアーティストとしての顔に焦点を当てる展覧会だ。日本で彼が手がけた建築としては上野にある国立西洋美術館本館が有名だが、多くの建築作品が世界遺産にも登録されるなど、まさに近代建築の巨匠。一方で、彼の創作の根底には常に絵画への情熱があったとも言われる。同展では、普段あまり見る機会がない、ル・コルビュジエによる油彩画や素描などが100点以上も集結。展覧会タイトルにある通り、その作品の数々がすべて大成建設のコレクションであることにも驚くだろう。

ル・コルビュジエ「行列」(リトグラフ、1962)大成建設所蔵
ル・コルビュジエ「行列」(リトグラフ、1962)大成建設所蔵

6
クラフトビールと、友沢こたおのペインティングと。

さて、日も暮れ始めた頃合い。ちょっぴり歩き疲れた気もするし、小腹も空いたし、気分は「とりあえず、ビール!」。となれば、虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの地下2階にあるブルワリーレストラン〈dam brewery restaurant〉が正解だろう。併設されたスケルトンの醸造所を眼前に、旬のフレーバーやさまざまなスパイスの香りを味わえるオリジナルのクラフトビールに目移り。ビールと相性抜群のフードメニューもたくさんあって、つい2杯目3杯目……と、いろんな種類を試したくなる。

そして、なんと言っても目を奪われるのが、店内の壁一面に広がる巨大なペインティング。この作品を手掛けたのは、新進気鋭の若手画家、友沢こたお。彼女の代表作シリーズとして知られるスライム状の物質を被った人物像の絵はどこか妖艶で、おしゃれでもあって、店内の雰囲気にぴったり。4枚のキャンバスからなる連作で、つなぎ合わせると全長9メートルにもなるというから圧巻。

アートとクラフトビールの時間――そんな楽しみ方が、これからのスタンダードになる予感がする。

ブルワリーレストラン〈dam brewery restaurant〉
テーブル席とスタンディングスペースなど約80席。アートディレクターの平林奈緒美さんが手がけたネオンサインやロゴ、アートコレクターでもあるインテリアデザイナー片山正通が率いる〈Wonderwall〉による空間デザインにも注目したい。