WAKAWAKA奥田慎一郎が語る、LA発「シンプルさ」と「遊び心」の心地よい関係。
「シンプルなものほど、美しさや面白さが浮かび上がってくる。まるで白紙にデザインを描くように、素材はできるだけ主張を抑えています」。そう話すのは、LAを拠点に家具ブランド<WAKAWAKA(ワカワカ)>を主宰するデザイナー、奥田慎一郎さん。シンプルでモダン、それでいて遊び心が感じられる彼の家具は、ファッションやインテリア好きの間で静かな注目を集めている。<SELECT by BAYCREW'S>でも取り扱いがスタートしたこのタイミングで、奥田さんにブランド誕生の背景、デザイン哲学、そして自身のルーツについて伺った。

LAで見つけた、自分らしさの居場所。
福岡県出身の奥田さんがアメリカに渡ったのは1997年のこと。最初はLAに立ち寄っただけのつもりが、居心地の良さに惹かれ、そのまま定住することになったという。
「日本にいた頃は競争社会があまり肌に合わなくて、頑張ろうという気持ちになれなかったんです。LAはその点、都市のサイズも大きく、多様性があって、自分のペースで自由に好きなことができる環境がありました。それが心地よかったですね」。
さらにニューヨークとも比較して、LAは作品そのものの良し悪し以上に、プレゼンテーションスキルやコネクションなどクリエイティブ以外の要素でジャッジされることが少なく、自然体でいられると感じたそうだ。
LAのコミュニティは多様な才能を寛容に受け入れ、奥田さんも偶然の出会いを繋げながらキャリアを築いてきた。リトルトーキョーの花屋、チャイナタウンのカフェ、そして彫刻家ホルヘ・パルドのスタジオなど、ひとつひとつの経験が家具制作への道を開いていった。
なかでも映画やCM用のプロップ(小道具)家具を担当した経験は、多様な家具スタイルに触れる機会となり、奥田さんのセンスや視野を大きく広げるきっかけにもなった。




素材を"白紙"として扱う独自のデザイン哲学。
奥田さんが手掛ける<WAKAWAKA>の家具の特徴は、ミニマルでモダンなデザイン。主な素材はバルティックバーチ合板という淡い色調で癖のない合板だ。
「この合板は<イームズ>などミッドセンチュリーの家具にも使われている素材です。ただ日本ではあまり使われないこともあり、新鮮に感じました。主張がない素材だからこそ、デザインを前面に出せるんです」。
素材そのものの個性や質感を主役に据える<ジョージ・ナカシマ>のようなアプローチとは対照的に、奥田さんは均質な合板を背景として、形状やコンセプトを際立たせる手法を選んでいる。また、イタリアの<MEMPHIS(メンフィス)>をリスペクトし、ラミネートブランド<Abet Laminati>を使った大胆な色遊びも作品に取り入れている。




パンデミックが気づかせてくれた、日本的美意識。
母方の祖母は茶道、父方の祖母は花道の先生という環境で育った奥田さんだが、アメリカで家具制作を始めた頃は、意識的に日本らしい作風を避けていた。
「パンデミックの時期に、自分が感染して隔離されていた2週間を使って茶室をデザインしました。そのプロセスの中で、自分に根付いていた日本的な感覚が自然に蘇ってきたんです」。
幼い頃から無意識に触れていた日本的な美意識が、シンプルさや細部への配慮、素材の扱い方として、自身の作品に息づいていることを改めて実感したという。


大好きなモノ作りを続けるために。
奥田さんは家具制作の環境を維持するために、チームをあえて小規模に保っている。これは決して「自分の作りたいものを頑固に守る」という意味ではなく、依頼者の意図を丁寧に汲み取りながら、誰かの課題を解決し、多くの人に喜んでもらえるようなモノ作りを継続するための工夫だ。
「会社規模を大きくすると、どうしても自分が手を動かす時間が減り、好きなモノ作りをすることが難しくなります。だから、あえて小さくして、僕自身が大切にしている『誰かに喜んでもらえるようなものづくり』を続けられるようにしています」。
大量生産を避け、一点一点丁寧に作ることで、素材の質にも一切妥協しない。端材すら大切に使い、良質な家具を届けることを何よりも大切にしている。
面白い発想や視点を持ち続ける秘訣は?と尋ねると、
「たくさんの映画を観たり、週に2〜3回サッカーをしたりして体を動かすのが習慣です。あとはいつもと違う道を通るのも発想の転換になる」と奥田さんは話す。
そんな、身近で素朴な楽しみを大切にする姿勢や好奇心こそが、奥田さんの家具に息づく遊び心の源なのかもしれない。

