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FASHION | 2025.6.3

暮らしの中に入り込んだ、旅の記憶たち。<鈴木商店NOMAD>が選ぶ品とは?

世界中から選ばれたラグや雑貨を小規模展開する<鈴木商店 NOMAD>は知る人ぞ知る店。<SELECT by BAYCREW’S>内でも取り扱うヴィンテージやオリジナルラグは、味わい深く他では手に入らないものばかり。6月18日から始まるポップアップストアに向けて準備中の<鈴木商店 NOMAD>を訪ねた。 トップ画像:鈴木商店 NOMAD

photo: Hiromichi Uchida / text&edit: Shigeo Kanno
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ショップのドアは質感のあるウッド。作業中の鈴木夫妻。

<鈴木商店 NOMAD>は、九十九里浜から内陸に少し入った県道沿いに、静かに佇んでいる。近くには田畑が広がり、軽トラックが行き交う姿が見えるような、穏やかでローカルな風景が印象的だ。<鈴木商店 NOMAD>は、鈴木夫婦が世界各地の旅先で集めてきたものが並ぶ小さなバザールのような店だ。店の看板も控えめでオンライン販売もしていない。ただ、鈴木夫婦が好きで持ち帰った物たちだけが店頭に並んでいる。

店内には、ラグをメインに興味をそそるアイテムがずらり。

「もともと商売をしようと買ってきたモノではないので、流行りとか見栄えを意識してないんです。これが売れなければ、自分たちで使えばいい。それくらいの感じなんです」。

と鈴木さんは話す。白い壁が特徴的な店内の中心には、モロッコのヴィンテージラグが広がる。古びた色、均一でない手織りの線、経年によるすれやかすれ。そうした「人に使われてきた痕跡」にこそ、夫妻は惹かれているという。市場で整然と並ぶ新しいラグよりも、生活の中にあったラグ。例えば料理の油がしみた跡すら、愛着とともに残るものだ。

手織りのラグはデザインもサイズもバリエーションが豊富。

「旅先で見つけたものって、買おうと思って狙って探していたわけじゃないんです。ただ、ラグや雑貨がたまたまそこにあって、自分のアンテナに引っかかっただけなんです」と気さくに話す鈴木さん。店の成り立ちについても説明してくれた。

「モロッコ、アメリカ、メキシコ、アフリカ…。旅の途中でふと出会ったラグや器、木の皿やカゴが、自然と自宅に増えました。そしていつの間にか、生活がそれらに浸食されるようになって、家の中に置ききれなくなった頃、倉庫代わりに古民家を借りました。海が近く、波乗りの合間に通うのにもちょうどよかったんですね。時々、友人たちが訪れるようになり『売ればいいのに!』と言われて始めたのが今の店の原型。営業日は月に数日だけ。決まった営業時間はなく、訪れる人とのゆるやかなやりとりの中で成り立っています。商売というよりは、自分たちの生活の一部を少しだけ共有しているようなものですね」。

現地人々の伝統的な生活様式や習慣が感じられるデザインや、新品では味わえないヴィンテージ感のある品々は、確かに現物を見ないと良さが伝わりづらい。

ブラジルデザイン界の巨匠、ジョゼ・ザニーネ・カルダスのキャビネット(非売品)に並ぶ陶器。
様々な布を裂いて編み込んだラグ。欧米ではラグを壁掛けしてアート的に飾る家庭もあるという。

最近では、モロッコの現地の職人にオリジナルラグの制作を依頼するようにもなった。とはいえ、そこにも商業的な拡大意識はない。自分たちが「こういうのが欲しい」と思ったものを、織ってもらっているだけ。結果、1枚1枚サイズも色も微妙に違う。けれど、それこそが“らしさ”だと受け入れている。

「買い付けも簡単ではありません。値段交渉が前提の文化なので、お茶を飲みながら世間話やサッカー談義から始まります。やっと信頼関係ができたと思っても、次の訪問ではまた最初から(笑)」。

モロッコの習慣を尊重しながら、時間をかけて築いた関係性の中で生まれた品々には、思い出や背景が詰まっている。それだけに、使い手も“本当に必要としている人”であってほしいと願っている。

「NOMAD=遊牧」と名付けた理由も、どこかに拠点を置きながらも、つねに少し浮遊していたいという思いから。職業としての店ではなく、旅の途中に立ち寄った空気のままにある心地いい場所。それが「鈴木商店 NOMAD」だ。この店に置かれた物たちは、どれも過剰に語られることを望んでいない。ただ静かに出会うべき誰かとの再会を待っている。

大小様々なカゴ類も豊富に取り扱う。
トゥアレグジュエリーなどのアクセサリー類も充実。画像:鈴木商店 NOMAD
画像:鈴木商店 NOMAD

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