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BerBerJinディレクター 藤原裕さん
CULTURE | 2025.12.19

SELECT by BAYCREW’Sを綴る。#6 しまおまほ

作家、俳優、ミュージシャン、アーティスト……さまざまな分野で活躍するクリエイターたちが、〈SELECT by BAYCREW’S〉を訪れて感じたことを綴ります。第6回となる今回は、漫画家でエッセイストのしまおまほさんが、このショップを舞台にしたショートストーリーをしたためました。

Text & Illustration: Maho Shimao / Edit: Emi Fukushima
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ある日、SELECT by BAYCREW’Sにて。

12:57
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー2F
The STAND fool so good(s) 前

色とりどりのドーナツを目の前に人を待つという行為は修行に近いものがある。待ち合わせの指定は「The STAND fool so good(s)の"ドーナツ側"で」。確かにそこは“ドーナツ側“と”ギフトショップ側”のある横に広い店だった。…到着して3分も経っていないのに、頭の中はすでにシュガーグレーズでいっぱい。『店を回り終わってからカフェで甘いものでも食べよう』その約束を果たして破らずにいられるのだろうか。…待てよ、待ち人が現れる前に食べ終わってしまえばいいのでは?いや、口の端に砂糖は絶対につく。どんなに口の周りを撫で回したってアイツは顎やほっぺたに必ず残りやがる…そんな風にグルグルと考えていたらEMIさんはやってきてなんとか踏みとどまることができた。彼女は逸る気持ちを抑えられない様子で挨拶もそこそこ、エスカレーターへと向かった。

「ホームからステーションタワーが見えるの、アガりますよね」

3階に運ばれながらEMIさんは嬉しそうに言った。そう、日比谷線がホームに入った瞬間、向こうの方に何やら楽しげな、素敵げな予感の漂う店の外観がガラス越しに目に飛び込んでくるのだ。

「アガるアガる。ガラスを突き破って直行したくなった」

そういえばさ、わたしは続けた。

「待ち合わせがThe STAND fool so good(s)の前ってEMIさんにLINEでもらった時さ、(s)って、ジュンスカじゃんって思ったんだけど」

「え、なんですかそれ」

しまった。EMIさんは一回り以上年下の友達なのだ。

「あとで検索しといて…」

「わかりました(笑)」

心の中で小さく自分に「ドンマイ」を送りつつ、もしかして「ドンマイ」も古いかも、と不安になったところで3階に、到着。

13:05
虎ノ門ヒルズ ステーションタワー3F
TITLE:

「夏に来た時とインテリア変わってる!」

まずは小物系でも見ようか、と入ったTITLE:でEMIさんは興奮気味だ。商品が変わってるってことはまた買っちゃうってことじゃん!と小声で悲鳴をあげながら、もう手にはキーホルダーやらペンケースやらを取って値札に目を落としている。店内はスペースエイジがテーマの家具と雑貨。20年前、知り合ったおしゃれな年上のお兄さんの家で見たレトロフューチャーなデザインの灰皿やスピーカー、目覚まし時計と同じ物があって懐かしかった。天井まである大きな窓の部屋に何人かで遊びに行っては夜中までレコードや雑貨や、アメリカのテレビアニメを見せてもらっていたっけ。そういえば彼が住んでいた渋谷のヴィンテージマンションのロビーにもボールチェアーが置いてあったな。あのマンション、いよいよ解体されるらしい。

「宇宙ステーションみたい」

幾何学的デザインの照明を見上げたEMIさんはもうショッパーを抱えている。もし、ここがスペースコロニーだったら…

「毎日好きな服を選んで、メガネをかけて、ドーナツ食べて。最高じゃない?」

「いろんな企業がプロデュースするコロニーが宇宙を漂っていて、人類はどのコロニーに住むか選べたりする…とか。」

…2025年のわたしたちが考える遠い未来も、50年も経てばレトロフューチャーかな。

13:38
EYETHINK~THE NIME〜ウィメンズエリア

「さっきのメガネ、なんで買わなかったの」

「ん〜いや〜迷ったんですけど…一旦冷静になろうかなと…」

「似合ってたのに」

「買わせようとしてます?(笑)」

「まあ、たしかにメガネって勢いで買えないよね」

「そうなんですよね〜」

TITLE:の後に寄ったアイウェアショップEYETHINKでEMIさんはかなり粘った。しかし、わたしもTHE NIMEのデニムラックの前で相当迷っていた。古着のブラックデニムが欲しい。ここ数年の懸案事項。 

「ロック路線じゃない方向で着たいんだよね…」

「サイズ感良さそうですよ?」

「そうだね〜ピタピタスリムだったらロックだけど…この感じなら大丈夫か…」

「今着てるアウターにも合いそうじゃないですか」

「買わせようとしてる?」

「いやいや(笑)」

ラックの向かいにあるガラスケースに入ったヴィンテージデニム。値札は見えなかったが3桁はするらしい。まるで美術品のように鑑賞するわたしたちに店員さんが学芸員さながら教えてくれた。ここにあるデニムはBerBerJinの藤原裕さんがセレクトと監修をしているそうだ。

「とりあえず、他も見てから決めようかな…」

フラフラと入ったウィメンズエリアで家賃1年分は軽く越えるヴィンテージウォッチやハイブランドのバッグを眺めてわたしたちの感覚は完全にバグった。

14:18
メンズエリア

そこに、ピンクの球体が現れた。なんの前触れもなく、唐突に。でも、なんだかい愛おしい。わたしがここで働いていたら、出勤してまずコイツに挨拶すると思う。カービィーのような、ピンクの毬藻のような。

ピンクのコイツに気を取られて気づかなかったんだけど、手に取った服がどれも大きいのは、どうやらメンズのエリアに迷い込んでいたかららしい。

「メンズも可愛いよねえ」

「可愛いですねえ」

「着こなせるようになりたいわ〜」

「わかりますー」

「こういう時に思うんだよね」

「はい」

「わたしが菊乃だったら…って」

EMIさんは、今わたしがコーヒー飲んでたら吹き出してたと思いますよ、と言ってギャハハと笑った。

「でも、わかるよね」

「わかりますよ、めっちゃ可愛いですもんね」

「そう、可愛くてお洒落」

「最強ですよね」

この会話、誰かに聞かれてたらちょっと恥ずかしいな、と思いつつ。年齢とかもうどうでもいい。可愛くてお洒落な女になりたいのだ、永遠に。

14:32
Circles Tokyo

どこかで見たことのあるロゴだな、と思ったら名古屋では有名なサイクルショップらしい。そうだ、自転車好きの知り合いがインスタに載せていたんだ。「#名店」「#聖地巡礼」と加えて。

所狭しと並ぶパーツやアイテム。特別詳しくないくせに、こういう店に入ると妙に落ち着くんだ。

新しい自転車も懸案事項なのだよな…。今の自転車をカスタムして乗り続けるか、思い切って買い換えるか…。

思えばわたしの自転車歴も長くなった。高校、大学の8年間は自転車通学だった。派手に転んだ世田谷区役所前、石田純一とすれ違った駒沢通り、環八沿いにあったラブホテルの前を走る度に何故か入口に飾られていた西洋甲冑と目が合った。

…高校、大学で8年って計算がおかしい?それは、留年しているからで…。

14:52
RITUEL

Circlesの脇にある吹き抜けの階段を下ると、途中からパンや玉ねぎを炒めたような、とにかくたまらない香りがした。降りた場所は、カフェの真ん中。目の前にはケーキのショーケースが鎮座している。

さっきのcircles Tokyoにディスプレイされていた自転車の籠には沢山の花束があった。今はケーキを見ている。まるで、特別な日みたい。

「ヤバいな…最後にドーナツ食べようと思ってたのに」

「ですね…」

とりあえずケーキを眺めて、入り口付近のブレッドコーナーも食い入るように見て、RITUELで茶をしばいてドーナツは持ち帰りにしようゼ!となった。

サクリスタンピスターシュ、ブリオッシュ トリデュ、ショソン・オ・ポム…難しい。難しいけど、確実に美味しそう。

「エスカルゴ カフェ ノア…ゼット」

「ゼェーット!って水木一郎みたいだね」

「……」

「検索しといて」

「はい(笑)」

チャイティーラテを飲みながら、EMIさんは言った。

「あの…これ食べ終わったらEYETHINKでメガネ、もう一回行ってもいいですか?」

「わたしもブラックデニム見に戻りたいと思ってたよ〜」

「よかった!」

「その前に、ドーナツの隣のギフトショップで買い物していい?鹿児島の親戚の子どもにプレゼント買いたくて」

「もちろん〜」

一体わたしたちは、何時に帰れるんだろう?