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ART | 2025.7.15

個展『ひかりだすわ』をめぐる、シシヤマザキさんとの対話。

art cruise gallery by Baycrew’s〉では現在、アーティストのシシヤマザキさんの個展『ひかりだすわ』が開催中。〈SELECT by BAYCREW’S〉の一角に現れた一面ピンクの空間。一歩足を踏み入れると、まるで胎内にいるかのようなあたたかさに包まれる。奥にはライブペインティングをしているシシさんの姿が。本展の成り立ちや制作の姿勢など、さまざま話を聞かせてもらった。

Photo: Shoichi Yamakawa / Interview&Text: Nobuyuki Shigetake
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“自分が自分であること”に、ずっと驚いている。

ー 作品も空間も、ピンク一色ですね。派手だけれど、なんだかリラックスできるというか。

シシ:ピンクはもともと好きで、ごく自然に使っていたんですけど、ここ数年は特に意識して内臓のようなあたたかい色調のサーモンピンクを使っています。みんなが身体の中に持っている色なので、安心できますよね。

ー ああ、なるほど。そういうことですね。

シシ:ピンクって生命体のエネルギーをイメージした色なんです。こういう色の光を自分自身から発せられたら良いな、と最近よく考えています。

ー 「光」は近年のシシさんにとって重要なキーワードのひとつかと思いますが、本展は、どのようなことを表現した展示なんですか?

シシ:人って、光を見つけると「わあ、なんだろう」って集まってくる生き物だと思っているんですが、光を中心にたくさんの人が集まると、それぞれが影響しあって、その空間に豊かな瞬きが生まれる。私もそういった光を発することができたら良いな、と思っていて。私がくるくるとまわって発光して、その光にみんなが集まってきて、みんなも一緒にまわりだして、光りだす……そんなイメージを作品にしています。

ー 会場の中心に投影されている大型のアニメーション作品にそのコンセプトが色濃く現れているかと思いますが、歌が先ですか?

シシ:そうですね。歌が先にあることが多いです。もっと言うと、声からスタートさせています。

ー 歌というより、声。

シシ:はい。わーって声を出そうとすると、身体も自然と動くので、それをアニメーションにする。この一連の流れは私にとってすごく自然なことで、赤ちゃんの頃とかみんなそうだったと思うんですけど、身体を動かすことと声を出すことは本来連動しているべきものなんです。だから、歌を作るときも、とにかく身体を動かしながら作っています。

ー 歩いたり、寝転がったり。

シシ:はい。歌詞になるフレーズや言葉が思い浮かんだら、スマートフォンの録音アプリを起動して、うつ伏せになったり、仰向けになったり、回ったりしながら歌にしていきます。なるべく身体を解放した状態で、声を出して、メロディを探すような作業というか。

ー すごく原始的な作り方ですよね。

シシ:長年にわたってさまざまな作り方を試してきましたが、私にとってはこれが一番ウソのない状態だと感じています。

ー ウソのない状態。

シシ:多くの人によどみなく伝わるものを作りたいとは思っていますが、それ以上に、自分自身から“出てきてしまったもの”を賞賛したい気持ちがあります。そうするために、私は私にとって一番自然な状態で、広がりがあるものを作りたい。何かを生み出すにしても、受け取るにしても、脳だけでなく身体と一緒が良い、という気持ちが強くあります。​​

ー 「身体」や「身体性」もシシさんにとって重要なキーワードかと思いますが、シシさんが自身をモチーフにした作品を制作していることも、そういった考えに結びついている?

シシ:そうかもしれませんね。自分自身が一体何なのか、今どうなっているのかを知りたい、という気持ちが、幼い頃からずっとあって。

ー と言いますと。

シシ:“自分が自分であること”に、ずっと驚き続けているんです。幼い頃から、今に至るまでずっと。生まれてきたら、この身体という容器のなかに自分がいて、私は私しかいない。他者目線では自分のことを見ることができなくて、この身体を自分自身で終わらせることも許されてはいない。これってどういうことなの? とずっと思っています。

ー なるほど。

シシ:自分で身体を動かすことはできるけど、痛いときも苦しいときもあるし、気分とか機嫌とかも完璧にはコントロールできない。こんなありえない、正気の沙汰じゃないことがずっと理解できなくて、造形を通してその意味を確認したくなっちゃうんです。

ー 自分自身が存在していることを確かめるように。分かるような、分からないような。

シシ:たとえば、こうやって、手で自分自身の身体をなぞっていると、外側が浮かび上がってくるじゃないですか。

ー パズルみたいに。

シシ:そうです。そういうふうにして“自分”を筆や土で造形すると、そこに外側の世界が現れてくるんですよね。その外側の世界によって自分が存在していることを実感させられる感覚、というか。

ー 分かってきたような気がします。

シシ:絵画だとより強く体感できます。キャンバスに“自分”を描いているうちに外側の世界が現れてきて、“自分”を描くことは同時に外側の世界を描くことでもあるんだなって。

ー 絵画で描かれているシシさん、すごく優しくて、穏やかな表情をしているなと感じます。自分自身の現在の感情が投影されているのかな? と想像したのですが。

シシ:私自身も、自分自身から出ている光に癒される瞬間がよくあるんですよね。というのも、ここ数年で、すごく体調が良くなったんです。子どもの身体から大人の身体になって以降、わりとマイナーな不調がずっと続いていて、すごく悩んでいました。20代後半から数年間は本当に調子が悪かったんですけれど、益子への移住で生活が変わったり、良い食材を選んで食べたり、生活習慣に気を配ったりしていたら、すごく身体が回復してきたんです。今が人生で一番体調が良いとすら感じていて。そしたら、感覚が拓けてきたんですよ。身体の窓がひらいた! みたいな。自分から強いエネルギーが出ているのを感じています。そういう身体と感覚の変化が、絵に現れているのかもしれませんね。

ー 感覚が拓けてきた、ですか。

シシ:すっごく言語化が難しいんですが、身体を起点に、自身の内側が外界に拓かれていく感覚、というか。特に今回の展示は、経験したことのない感覚が自身の中に渦巻いているのを感じながら制作をしていました。

ー 何か具体的なきっかけなどがあったわけでもなく

シシ:そうですね。益子に移住したことや、コロナ禍に始めたオンラインのお絵描き教室など、自身への良い影響はここ数年でも数えきれないほどあって、これまでにも近しい感覚で制作に臨めたこともあったのですが、今回の展示ほど自覚的になれたのは初めてでした。アーティストとして10年以上活動を続けてきて、いまだにこうやって新しい自分になれることがすごく嬉しいです。

会期:2025年6月27日(金)〜 2025年8月11日(月・祝)
場所:art cruise gallery by Baycrew’s
東京都港区虎ノ門2-6-3
虎ノ門ヒルズ ステーションタワ ー3F SELECT by BAYCREW’S 内