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CULTURE | 2025.7.11

自由で懐の深いフィンランドの名作家具を。〈SNORK〉が〈SELECT by BAYCREW’S〉へ。

7月24日(木)〜8月31日(日)まで、<SELECT by BAYCREW’S>の3階でポップアップを行うのが、山梨県南部町にあるギャラリー兼ショップ〈SNORK MODERN AND CONTEMPORARY〉。モダンデザインの時代以降にフィンランドで生まれた、名作ヴィンテージ家具やデザインプロダクトを中心に取り扱い、“もの”を介して人々の価値観を揺さぶる活動を続ける彼らの本拠地を訪ねた。

Photo: Hiromichi Uchida / Text: Emi Fukushima / Design: Kyoko Uchida / Edit: Shigeo Kanno
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山梨県の最南端に位置し、豊かな山々に囲まれる南部町。〈SNORK MODERN AND CONTEMPORARY〉(以下、SNORK)は、田畑や民家が点在するのどかな一角に、ひっそりと拠点を構えている。都内からは車で約2時間半。決して好アクセスとは言えない立地ながら、全国からコレクターや感度の高い人々が足を運ぶのは、希少で状態の良い名作ヴィンテージ家具やプロダクトとの出会いを求めてのことだ。

〈SNORK〉の敷地内にあるショールームの1つ。

「もともと家具が好きで、20年くらい前から個人的に少しずつ集めていて。今の店を始めたのも、あくまでその延長線上なんです」とは、代表の小山泰之さん。2006年に夫婦でこの地に移住し、築80年の古民家を9年かけて自分たちの手でリノベーション。2015年に、カフェとして〈SNORK〉をオープンするにあたり、かねてのコレクションを並べるギャラリーのスペースを設けたのがことの始まりだった。

「置き場も考えずに買っては倉庫にしまっていたものを、せっかくなら見てもらえればと思って展示しはじめました。あくまで私物なので当初は売るつもりもなかったんですが、日本のヴィンテージ市場にはあまり出回っていないような珍しいものも多かったことから、お客さんから買いたいと言われる機会が増えていって。オープンから3年ほどで飲食はやめて、本格的に家具の売買にシフトしていきました」

〈SNORK〉が核として扱うのは、フィンランドで生まれた家具。以前は工芸の分野で作家として活動し、スウェーデンへの留学経験を持つ小山さんが、北欧のライフスタイルに自然と触れていたことも遠因ながら、より直接的なきっかけは、20世紀初頭に生まれたモダンデザインの巨匠であるフィンランド人建築家、アルヴァ・アアルトのプロダクトに感銘を受けたことだった。

モダンデザインのヴィンテージ家具を中心にスタイリングされた空間。左端にスタックされているのは、アルヴァ・アアルトが1933年にデザインした「スツール60」。
アルヴァ・アアルトの妻で、インテリアデザイナーのアイノ・アアルトが手がけた極めて希少なスタンドライトも。
〈SNORK〉のショールームは、自らリノベーションした古民家を含め3箇所。
家具はフィンランドを中心とした北欧から買い付けたものが中心だが、アートは国籍を問わず、純粋にクリエーションに惹かれたものを選んでいるのだそう。

「時間の流れと使用の痕跡によって味わいを増していくところに共感しています。定番のスツール60を例に挙げると、今セカンダリーの市場で目にする多くは表面がさまざまに塗装されていますよね。それらはメーカー側ではなく、所有者たちが自由にカスタムしたもの。さらに時を経て重ね塗りされたり、部分的に剥げたりすることで、唯一無二の表情をまとっています。それらを目にした時、生まれた瞬間から古くなる宿命を背負っている“もの”の、理想的なあり方だなと感じたんです。アアルトが考えていたのは、時間の経過とともに、いかに生まれた瞬間を超える魅力をもつものへ昇華させていくか。そんな感覚を持っているデザイナーズ家具は、いまだに他に思い当たりません」

今の気分は、モダンデザインの次世代。

こうしてアアルトやイルマリ・タピオヴァーラなど、1930〜50年代のモダンデザイン盛況の時代にフィンランド人デザイナーたちによって作り出された名作家具を紹介してきた〈SNORK〉。加えて近年注目しているのは、さらにその次世代が手がけた、1970〜80年代に生まれたプロダクトなのだそう。

1970年代に活躍したアンティ・ヌルメスニエミが手がけたシェーズロング。張られているテキスタイルは、彼の妻でマリメッコ創業時のデザイナーとしても知られるヴォッコによるもの。
建築家としても活躍したアアルネ・エルヴィがデザインしたチェア。

「この時代にも、イルマリ・タピオヴァーラに師事していたデザイナーのウリヨ・クッカプーロや、家具デザイナーとテキスタイルデザイナーのアンティ&ヴォッコ・ヌルメスニエミ夫妻など、モダンデザインの精神を受け継ぐ優れたデザイナーが数多く活躍しました。30〜50年代の家具は、近年日本国内でもその希少性に注目が集まり、異常な高値で取引されるような事態も散見されるなか、ものとしての良さとは別の文脈で売買される状況に正直辟易してしまったこともあって。今は、まだ国内であまり知られていないプロダクトを自分たちで価値づけし、お店に足を運んでくださ⁠⁠⁠⁠⁠⁠る方々の世界を広げられることに面白さを感じています」

またショールームには家具のほか、ドイツのインダストリアルデザイナー、ディーター・ラムスが手がけた貴重なヴィンテージオーディオ類もずらり。それらは、家具の考え方とはまた異なり「本来、経年変化を見据えてデザインされたものではない」との前提に立ち、状態の悪いものは塗り直したり、文字盤を刷り直したりすることで全面的にレストア。新品同様のプロダクトに仕上げて提案している。

壁一面に並ぶ、ディーター・ラムスのプロダクト。
1964年にディーター・ラムスがデザインした「ブラウンT1000」。ラジオ機能のほか、Bluetoothスピーカーとしても使用可能。
こちらも1960年代にディーター・ラムスがデザインしたブラウンのレコードプレーヤー「アトリエ1」。

「基本的には、オーディオとしてもしっかり使える状態にしてご案内しています。でも同時に、道具としてだけではないデザインとしての価値も伝えていけたらいいなと。というのも、日本では“使えること”が重視されがちですが、ヨーロッパでは仮に機能を失っていても、半世紀以上前の優れたデザインのアーカイブとして価値を見出して手に取る人も少なくないんです。もちろん本来の用途があるものではありますが、飾ることも、ある意味では使うことの一部。実用性から解放されることで、楽しみ方の幅が広がっていくのではないかなと思っています」

テーマは「SUMMER COTTAGE」。
フィンランドの湖畔を眺めるような空間に。

来たる7月24日(木)〜8月31日(日)まで<SELECT by BAYCREW’S>で行われる企画展では、1970〜80年代にフィンランドで生まれた名作家具を中心に、〈SNORK〉の真骨頂であるモダンデザインの希少なアーカイブなど、数十点の家具やプロダクトが展示販売される予定。テーマに据えられたのは「SUMMER COTTAGE」。夏の始まりにふさわしい、爽やかなスタイリングが施された空間が展開される予定だ。

「アアルトの建築にも『コエ・タロ』という夏の家がありますが、北欧では短い夏を豊かに過ごすため、自宅の他にセカンドハウスを持つ人も少なくないんです。そこで今回は、フィンランドの湖畔に立つコテージのテラスをイメージして、夏を感じさせるプロダクトを選び、空間全体をスタイリングしようと思っています。ことインテリアとなると、簡単に買い換えられないという意識が働くからか、どうしても無難な素材やカラーを選ぶ方が多いですが、本来はファッションと同じように、季節に応じて楽しむものなんですよね。家具を“着替える”感覚を持って、インテリアの楽しさや、ものを蒐集する喜びを体感していただけたら嬉しいです」

ソリッドな北欧家具と、陶芸家の桑田卓郎さんのアイコニックな配色のオブジェがマッチした空間。こうした新鮮なスタイリングも〈SNORK〉の魅力。
寄せ木細工のような加工が特徴のスウェーデン製のテーブル。
上には、高さや色のリズムが心地良いアートグラスを。

時のデザイナーたちが考え尽くして生まれた名品と対面できる、またとない機会。近づいてみたり、離れてみたり、横から見たり、斜めから見たりーー。思い思いに鑑賞することで、家具に対する印象もほんの少し変わるはず。ぜひ期間中に足を運んでみてほしい。