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ART | 2024.8.26

日常に芸術やデザインを取り入れる豊かさを。〈title:〉で展開中の「生活と芸術」とは。

SELECT by BAYCREW’Sの3階に位置するのが、アートコレクティブ〈SKIN〉と恵比寿のアートブック専門書店〈POST〉がタッグを組んでユニークなプロダクトや本を展示、販売するポップアップスペース〈title:〉。8月20日〜9月9日までは「生活と芸術」というテーマで、機能とデザインの両面を大切にしたものづくりをする3組によるコラボレーションが展開中だ。スペースのキュレーションを担当するSKINと、実現の核となったファッションブランド〈meanswhile〉デザイナーの藤崎尚大さんが、企画の背景を振り返った。

Photo: Hiromichi Uchida / Text: Emi Fukushima / Edit: Shigeo Kanno
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きっかけとなったのは、
“機能美”を追求するデザイナー同士の邂逅。

黒沼祥子さん(SKIN)、手嶌嘉彦さん(SKIN)、藤崎尚大さん(meanswhile)
右から、黒沼祥子さん(SKIN)、手嶌嘉彦さん(SKIN)、藤崎尚大さん(meanswhile)

「アートやものづくりの仕事に携わる中で私たちがかねて感じていたのは、日常生活のなかに芸術品やしっかりとデザインされたプロダクトを取り入れることでこそ得られる豊かさです。〈title:〉においてもオープン当初から、機能性と美しさを合わせ持った“もの”との暮らしを提案する企画ができないかと考えていました」

現在展開中の企画「生活と芸術」の起点についてこう話すのが黒沼さん。かねての構想がようやく実現したのが、“身体に最も近い道具”としての服のあり方を提案するファッションブランド〈meanswhile〉と、モダンデザインの礎を築いたドイツの美術学校・バウハウスの校舎を収めた作品で有名なフィンランド人写真家のオーラ・コーレマイネン、そしてオーディオや時計などの名品を数多く生み出してきたドイツ人インダストリアルデザイナーのディーター・ラムスという3組がコラボレーションする今回の企画だ。きっかけを作ったのは、以前から〈title:〉のキュレーションを行う SKINと親交があったという〈meanswhile〉の藤崎尚大さんだった。

「僕は服作りにおいて、バウハウスの“形は機能に従う”というデザイン哲学に大いに影響を受けてきたのですが、その理念を知るきっかけになったのが、オーラさんが撮った独特の光と反射表現でバウハウスの校舎を収めた写真でした。ふと思い立って本人にSNSで連絡を取ったら、返事がもらえて、それを機にパリで会うことができて。何か一緒にものづくりができれば、という話になったんです」(藤崎)

ポスター
ポスター各13,200 円

実際にできることを考えていく中で、ヒントとなったのは、オーラさんと交わした言葉だった。

「オーラさん自身もジェームズ・タレルやドナルド・ジャッドなどの先人のアーティストから影響を受けてきたそう。その彼が、次の世代の僕をインスパイアしたみたいに、君も次の世代の人にまた影響を与えられるはずだという言葉をいただいて。彼のビジュアルを生かしてものづくりを共にするのはもちろん、先人からオーラさんへ、そしてオーラさんから僕へ、そして未来へ、と受け継がれていく文脈も一緒に表現できないかなと考えました」(藤崎)

コラボレーション表現の場を模索する藤崎さんからの相談を受けたのが〈title:〉のキュレーターチーム。双方の思いが合致する形で今回の企画が実現することとなった。そして具体化に向けて議論を進める中で、藤崎さんが個人的にコレクションしていたというディーター・ラムスのオーディオもコラボレーションの輪に加えることに。その経緯を手嶌さんはこう振り返る。

ディーター・ラムスのヴィンテージのオーディオセット
右から、《BRAUN RT20》495,000円、《SK4-1》550,000円、《Atelier 1-8/L1》880,000円

「〈meanswhile〉の事務所に伺った時に、ずらりと並んでいたのが世界各国から集められたディーター・ラムスのヴィンテージのオーディオセットでした。これらもまさに、オーラさんや藤崎さん同様、バウハウスの系譜を継承し、機能と美しさを兼ね備えた生活を豊かにしてくれるプロダクト3者のコラボレーション企画として展開していこうという方向にまとまっていきました」(手嶌)

Tシャツにポスター、オーディオ、家具。
時代を超えて共鳴するプロダクトが一堂に。

Tシャツ
Tシャツ各8,800円

期間中に販売されるのは、〈meanswhile〉が手がけたオーラさんの写真をプリントした2種類のTシャツと、2種類のA1サイズポスター。いずれもモチーフは、バウハウスの校舎を収めた写真を筆頭に、幅広い人に魅力が伝わるよう彼の代表作を中心に選んだ。

「〈title:〉には、今回の企画を目的に来てくださる方のみならず、別のエリアを見に来た流れで足を運んでくださる方も多いんです。バウハウスやオーラさんを知らない方にも楽しんでもらえるようなモチーフを意識して選んでいます」(黒沼)

《audio2/L60》2,200,000円
《audio2/L60》2,200,000円
《LE01》197,000円、《LE01 STAND》55,000円
《LE01》197,000円、《LE01 STAND》55,000円

一方、ディーター・ラムスのオーディオは5種類が展示、販売される予定。「スピーカー、アンプ、ターンテーブル……と少しずつパーツを買い集めながらようやくオーディオとして形を揃えていて、いずれも日本では入手するのが難しい貴重なものばかりです。特に今回はリペアやメンテナンスを経てしっかりと“使える”状態のものを販売するので、欲しくてもなかなか買えなかった方や、現物を見てみたいという方にも気軽に足を運んでもらえたら」と藤崎さんは話す。

《WALL SYSTEM TS45/L470/PCS5/TG502》3,520,000円
《WALL SYSTEM TS45/L470/PCS5/TG502》3,520,000円
《TS45/L450/PCS5》2,420,000円
《TS45/L450/PCS5》2,420,000円

そのほか、ディーター・ラムスがデザインした〈ヴィツゥ〉のソファや、バウハウス出身のマルセル・ブロイヤーがデザインした椅子など、家具やプロダクトも多数並ぶ予定とのこと。ジャンルや生きる時代は異なれど、〈meanswhile〉の服作りにも脈々と受け継がれていく、バウハウスのデザイン哲学に影響を受けたデザイナーたちが生み出したプロダクトが一堂に会する貴重な機会となる。

「今の時代は、類似品やコピー品も多く流通し、ある種のデザイン的なものが安価で気軽に手に入りますが、やっぱりきちんと考え尽くされたデザインのものを使うことからしか得られない気持ち良さがある。この機会にその豊かさの一端を持ち帰ってもらえたら嬉しいですね」(黒沼)

●〈title:〉スペースでは、「時代を超えた機能とデザイン」のテーマから集められたデザイナーズ家具や雑貨を販売中。