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アオイヤマダがショップでマネキンを見ながらピンクのシューズを手にする
BerBerJinディレクター 藤原裕さん
CULTURE | 2026.4.3

<TORANOMON GUIDE > 刀剣からプラモデルまで、ニッポンカルチャーと出合う虎ノ門クルーズ。

桜の季節に合わせて散歩に出かけるなら、東京を代表するオフィス街・虎ノ門へ。その魅力は、散策しやすい近代的な風景の中に、由緒ある神社や老舗の蕎麦屋が残り、働く人たちの日常に溶け込んでいることだろう。そんな街で、海外からの旅行者たちにも大注目されているのが、刀剣やお香、プラモデルといったジャパンカルチャーの名店だ。伝統的な和文化と現代の手仕事を行き来しつつ、虎ノ門ヒルズのSELECT by BAYCREW’Sまで、日本の美意識を知る6軒をめぐってみよう。

Photo: Jun Nakagawa / Design: Kiyoshi Okabe / Text & Edit: Masae Wako / Edit: Shigeo Kanno
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香老舗 松栄堂 銀座店
お香づくり一筋300年、老舗の香りを日常に。

仕事を始める前に、20分ほどお香を焚いて気分転換する。あるいは、小さな香り袋をバッグに入れ、中身を取り出すたびにふわりと漂う移り香を楽しんでみる。そんな「日常のお香」を教えてくれるのが、約300年前に京都で創業した〈松栄堂〉の銀座店。天然の香料から生み出される雅な香りを伝え続ける香老舗だ。店長の鈴木紹允さんがすすめてくれたのが、スティック型のお香。「火を点けて焚くだけで、玄関やリビングの空気感がガラッと変わります」。銀座店では、好きな袋と香りを選んでカスタマイズできる「匂い袋」も大人気。目の前でお店の方が一つずつ仕上げてくれるのもうれしいし、数百円という価格にも驚かされる。「お香は、自分が安心して戻れる場所を作ってくれるものだと思います。店内では実際に試すこともできるので、心がフラットになる香りを見つけてほしいですね」

スティック型のお香。気になる香りをカウンターで試すこともできる。7cmのお香なら燃焼時間は20分程度。「芳輪」シリーズは1箱20本入り660円~。定番の香りを詰め合わせたアソートタイプを選ぶのもおすすめだ。
白檀(びゃくだん)や沈香(ぢんこう)などの香りが感じられるものや、ヒノキの香りを楽しむ爽やかなものなど、種類も豊富。スティックタイプのほか、渦巻型も人気。付属の香立てに立てるだけという手軽さもうれしい。
伝統柄からモダンなものまで、ずらりと並んだ中から好きな袋を選ぶ。香りは、白檀や丁子など天然の香料を刻んで調合した3種類の中からセレクト。
選んだ袋(写真は和紙製)に香りを詰め、丁寧に紐を掛けて仕上げてもらえる。その様子を眺めるひとときも楽しい。
完成! 両側は和紙でできた薄型の匂い袋、中央はコットン製の巾着型。甘くふくよかな香りの「空蝉香(うつせみこう)」などを詰めて、一つ715円~。
店内には美しい陶器の香炉も並ぶ。お香が大陸から日本に伝来した6世紀以来、平安時代の貴族も室町時代の茶人も江戸の町人たちも、暮らしの中で香文化を楽しんだ。お香は日本のライフスタイルに寄り添ってきた文化なのだ。
ゆったりした空間でお香を選べる。軽くて小さなお香は、お土産にもぴったり。

TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO
日本のプラモデル文化の発信拠点。

自分の手でものをつくる喜びを、世界一の技術力と模型愛とで牽引する〈タミヤ〉。そのフラッグシップ拠点である〈TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO〉に並ぶのは、最新プラモデル、ミニ四駆、RCカーなど6000点以上の製品だ。プラモデルの魅力は、作りながら本物のデザインや構造を理解できること。ゆえに当社では、古い戦車も最新のレーシングカーも航空機も、可能な限り実物を取材する。造形を忠実に再現するだけでなく、歴史や背景にあるストーリー性まで深く理解し反映させるからこそ、ほかには真似のできない唯一無二の製品を生み出せるからだ。また、「ウソでしょ!?」と思わず二度見するほどに精巧なつくりでありながら、人間味が感じられる点も〈タミヤ〉製品の特長。最近では、かつて愛された旧車の再生産モデルや、戦車やフィギュアを組み合わせたのどかな雰囲気の情景模型にも注目が集まっている。

タミヤ製品約6,000アイテムを展開する発信拠点。おなじみのロゴが印象的なこのエリアから始まって、高さ約4m、全長約100mにわたる売場が続く。
施設内に飾られていたのは、プラモデルのパーツを塗装して額装した「パーツパネル」(年に一度のみの一部アイテムを受注生産)。写真は1965年のF1マシン、Honda RA272(非売品)。
〈タミヤ〉の原点は戦車などのミリタリーモデル。休息中の兵士や動物を組み合わせた場面など、穏やかな情景を作るスタイルも人気。
ガラス張りのファサードが、明るくウェルカムな雰囲気を醸し出している。海外からの観光客にも「プラモデルの新たな聖地」として人気が高く、ここを目指して新橋・虎ノ門を訪れる人が少なくない。
「こんなに細かなディテールまで再現されている!」と感動必至の精巧なパーツ。写真は1/35ミリタリーミニチュアシリーズの一部。モノを詰め込んだ携行リュックのシワ感まで見事に表現されている。犬のパーツがあるのもご愛嬌、遊び的な要素まで本気仕様なのがすごい。
コミカルな走りが楽しい電動ラジオコントロールカーシリーズ「ランチボックス」など、人気アイテムのハコがずらりと並ぶ棚。昔懐かしい‶町の模型屋さん〟の雰囲気だ。
子どもの頃を思い出し、大人になってから再びハマる人も多いのがミニ四駆。カーボン製の強化プレートなど、ミニ四駆グレードアップパーツも充実。
ショップ沿いの大通りで上を見上げると、「人生で大切なことの1/35くらいは模型が教えてくれた」という〈タミヤ〉の格言が!

愛宕神社
「出世の石段」も有名な、山の上の桜の名所。

標高約26m、23区内にある天然の山では1番高い愛宕山。その山頂に鎮座する〈愛宕神社〉は、桜の名所としても知られるオフィス街のオアシスだ。創建は1603年。「出世の石段」と呼ばれる急な石段があり、商売繁盛や縁結びを祈る人も多い。境内には豊かな緑と昔ながらの神社の雰囲気が残されており、「満開の桜も新緑もそれぞれに美しく、秋はお月さまがきれいで雪景色にも心が動く。1年中楽しめるところが、皆さんに愛されている理由だと思います」と神職の方のお話。「神社は、ご自身の頑張りに対して最後のひと押しを神様がしてくださる場所なんですよ。ですから、心を静かにして境内を歩き、四季の景色を感じるだけでも良いですし、海外の方には、日本古来の宗教感や静謐な感じを肌で感じてもらえたらと思います。神様のドアはいつでも開いていますから」。

1603年(慶長8年)、徳川家康の命により、防火の神様として祀られたのが始まり。火産霊命(ほむすびのみこと)を祀る社殿の手前には、美しい朱色の神門「丹塗りの門」がある。
鳥居から先は神様がいらっしゃる神聖な場所。一礼してから鳥居をくぐり、手水舎で手と口を清めてから参拝を。
虎ノ門ヒルズなどの高層ビル群とも共存する愛宕神社は、都会のオアシス的存在。江戸時代には、東京湾や房総半島まで見渡せたと言われている。
江戸幕府ゆかりの神社ゆえ、社殿の屋根の正面には三つ葉葵の神紋が飾られている。その下の懸魚(けぎょ)には「猪目(いのめ)」と呼ばれるハート型の刳り(穴)があり、扁額に描かれた愛宕の「愛」という文字ともあいまって隠れた人気スポットに。
椿、梅、桜……と四季折々の景色を楽しめる境内。「桜の季節も素敵ですが、私はその後の新緑も大好きです。緑が芽吹いてキラキラと輝くんですよ」と神職の方。
愛宕下通り沿いに立つ大鳥居の向こうに、境内へ続く急こう配の石段がある。その数、86段。徳川家光公と四国丸亀藩の家臣・曲垣平九郎の逸話から、「出世の石段」と呼ばれるようになったそう。
手のひらサイズの「紅白だるまみくじ」。このほかに「おみくじ」や「恋みくじ」も。
1868年3月、勝海舟と西郷隆盛はここから江戸市中を見渡し、それが後日の江戸城無血開城につながったと言われている。境内には「出世の石段」と「江戸城無血開城会談」の看板型顔はめパネルも。
社殿は手前から拝殿・幣殿・本殿となっており、神様がいらっしゃるのは最も奥の本殿。通常は拝殿の前でお参りをするが、毎月24日の縁日には、「裏参り」つまり本殿の裏(神様にいちばん近いところ)でお参りができる。

日本刀剣
刀剣という‶サムライ美術〟に出合う。

かつては戦いの道具として作られ、サムライの精神的拠り所でもあった。そんな日本刀に出合える店がある。創業は明治時代。戦前から虎ノ門に店を構える〈日本刀剣〉は、平安時代の刀剣から現代作家が作る美術日本刀まで、丁寧に目利きされた逸品を扱う老舗店だ。観賞用に買い求める美術好きが多いが、「日本には古来、災いを断ち切る‶お守り刀〟として刀剣を持つ伝統もあるんですよ」と4代目の伊波賢一さん。「刀剣の見どころは姿形・地鉄・刃文です」「反りが合わない、トンチンカン、しのぎを削る…これらの言葉はすべて、刀から生まれました」といった鑑賞法やトリビアも興味深く、刀剣ワールドにぐいぐい引き込まれる。海外から訪れる人も多く、購入しやすい模造刀や鐔(つば)などの刀装具も人気だとか。「日本の文化や美意識を、しっかりと後世に伝えていくことが我々の使命です」

刀剣鑑賞法その1は「姿形」。「平安・鎌倉時代は馬上で戦うことが多いので、刀身が長く、反りが大きい。振り下ろすのに適した形です。一方、鉄砲伝来後の室町・桃山へ時代が下り、地上戦が増えると、刀身は短めになり、反りも少なくなってきます」と伊波さん。
鑑賞法その2は「地鉄(じがね)」。「高温で熱した玉鋼(たまはがね)を鎚で叩いて伸ばして折り曲げて層にして……という鍛錬を繰り返すことで生まれる鋼(はがね)の模様です」(伊波さん)。近づくと美しい木目のような地模様が見えてくる。
刀身から自分の手を守るための鐔。縁起のいい柄や物語のワンシーンなどの装飾が施されたものも多く、額装して飾っても美しい。写真は江戸後期の作。艶やかな七宝焼で蘭と蝶々の模様が施されている。
刀身を合金にしてクロムメッキを施した模造刀(レプリカ)も人気。ものを切ることはできないが、堂々たる美しさは眺めているだけでも気持ちがあがる。上段は「刀 朱蛭巻肥後拵」93,500円(2026年3月現在)。すべて日本製で登録許可証不要。
16世紀、室町時代後期に備前国(今の岡山県東部)で作られた、「末備前(すえびぜん)」と称される刀。「火花を散らして鋼を叩き鍛える日本古来の鍛冶仕事が、‶軽く・粘りがあり・よく切れ・折れにくい〟刀剣を生み出したのです」と伊波さん。
修復が必要なものは丁寧に直し、その刀剣にふさわしいコンディションに戻すのが〈日本刀剣〉のポリシー。店内には刀剣のほか、稀少な鎧なども並ぶ。
刀剣鑑賞法その3は「刃文(はもん)」。刃の部分に現れる模様。鍛錬を繰り返した後の「土置き・焼き入れ」という工程によって生じる。まっすぐな直刃(すぐは)や、波打つような乱刃(みだれば)など、見れば見るほど面白い。
現代の刀剣作家による刀剣も見ごたえあり。写真は鎌倉期から室町にかけて活躍した刀工の一派「月山(がっさん)」の系譜を継ぐ奈良の作家、月山貞利の作。特徴は綾杉肌と呼ばれる地金の美しさ。自身で施した龍の刀身彫りも素晴らしい。
店舗は虎ノ門三丁目の角。「SAMURAI ARTS」の大きな看板が目印だ。

虎ノ門 大坂屋 砂場
風格ある木造建築で、香り高いせいろ蕎麦を。

昼間も夜も、開店と同時に蕎麦好きでにぎわう〈虎ノ門 大坂屋 砂場〉。地元の常連客もサラリーマンも観光客も隔てなく、風情ある空間と江戸蕎麦の味に酔いしれるのがいつもの風景だ。これからの季節なら、細くてつるりと冷たい手打ちのせいろ蕎麦を。スルスルッといただくたび、口いっぱいに蕎麦の甘みと香りが広がって、思わず頬がゆるんでしまう。店舗は1923年(大正12年)に建てられた木造2階建。切妻の瓦葺き屋根や三角形の千鳥破風(はふ)も美しく、登録有形文化財に指定されている。戦時中の空襲被害をまぬがれ、関東大震災などの災害にも耐えた町のランドマークは、今なお大正時代の面影を残しながら、虎ノ門の景色をつくっている。

虎ノ門ヒルズ近くの交差点角地に立つ木造2階建。この土地は、初代当主の稲垣よそが旧大名家から譲り受けた場所だったそう。2021年には町の再開発のため、曳家(建物を解体せずにそのまま移動すること)によって4mほど移動、2022年に元の場所へ戻った。
「砂場」という屋号は、豊臣秀吉の大坂城築城時、資材の砂置き場に蕎麦屋を開店したことに由来するとされている。その後、江戸に下り「大坂屋砂場」として営業。1972年(明治5年)、砂場本家からの暖簾分けにより、「虎ノ門 大坂屋 砂場」を創業した。
落ち着いた雰囲気の1階店内。2階には座敷もある。創業当時は幕末三舟と呼ばれる山岡鉄舟、高橋泥舟、勝海舟にもひいきにされていた。
店内のそこここに、色絵の古い蕎麦猪口などが飾られている。
白海老と玉葱の大きなかき揚げはサクサクと香ばしく、箸がとまらなくなる旨さ。白えびの天せいろ2,100円。
香り高く甘みも感じるせいろ蕎麦は、北海道産の蕎麦粉を外二(そば粉10、小麦粉2)で合わせたもの。ちょっと濃い目のめんつゆでいただく。
定番人気のおつまみ、焼きとり。ジューシーで柔らかなもも肉に、あっさりめのタレがよく合う。3本900円
木製の杓子で供される人気のつまみ、そばみそ。こんがりと炙った蕎麦味噌に日本酒も進む! 450円

SELECT by BAYCREW‘S
たくさんの日本ブランドに出会えるセレクトショップ。

SELECT by BAYCREW’Sでは、日本ブランドのアイテムが揃っている。服を中心に、日本ブランドのコスメや器、時計や電卓、メガネにスニーカーまで、ジャンルをまたいで”日本らしさ”が並ぶ。いわゆる日本ブランドとひとことで言っても、その表情は豊富だ。デザインやアイデアもどこかに日本らしい細部へのこだわりや面白さに出会える。ここでは、ただアイテムを選ぶというよりも、その興味深い背景ごと手に取るような感覚があるのだ。

Jacket 61,600円  (Chika Kisada + THENIME)。<CHIKA KISADA>、<CFCL>、<FUMIKA UCHIDA>、<TANAKA>、など国内ブランドが豊富に取り揃う。
左からCleansing serum 4,400円、Plump essence 5,500円、Growth cream 7,700円、Skin corrector 6,600円(すべてNowLd)この他にも、<LIRIO>、<goto essentials>、<TAU>、<SENSE OF HUMOUR>、<HENRY>、<GIU>など多くの国内ブランドのスキンケア、ヘアケアアイテムを取り扱う。
<KUKUTANI> 3,300円~33,000円。日伝統工芸・九谷焼のブランド<九九谷/ククタニ>。掛け算の“九九”と“九谷焼”に由来する名の通り、九谷の職人や作家とのものづくりに加え、オリジナル形状の器やアーティストとの協働など、他ジャンルやカルチャーとの“掛け算”で新たな表現を探る。石川県小松市で生まれる九谷焼を軸に、過去から連なる“今”をかたちにしている。

<美濃焼/SHOTOEN> 3,960円~5,280円。美濃焼の歴史と技術をベースに、英国由来のデザインをまとった日英ミックスのスリップウェア。岐阜・土岐市の窯元<正陶苑>と、恵比寿のテーブルウェアショップ<THE HARVEST>による共同制作だ。スリップウェアは古い歴史を持つ陶器の一種で、日本では約100年前、民藝運動をきっかけに再評価され、現在も多くの窯元や作家に受け継がれている。
<葛飾北斎/HOKUASAI>G-SHOCK 17,600円、Calculator 5,500円(ともにCASIO)。世界的に高い評価を受ける江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎。代表作「富嶽三十六景」全46図の中から、「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴」を採用。日本が誇る芸術の美しさと、現代の実用性が調和した一品だ。
Metal frame glasses 55,000円(ayame)、Sirmont glasses 52,800円(ayame×EYETHINK)。<ayame>、<MASAHIRO MARUYAMA>、<BLANC..>、<YUICHI TOYAMA>など国内ブランドを幅広くラインナップ。店内には常時約1000本のアイウェアが並ぶ。
<MIZUNO>のシューズ 17,600円〜。人気モデル《WAVE PROPHECY LS》をはじめ、<Herringbone Footwear>限定の別注アイテムも展開。その他にASICSやOAOといった国内ブランドを含め、約300足のフットウェアを揃える。
Jacket 385,000円、Vest 各297,000円(すべてKUON)。<KUON/クオン>は「久遠」に由来し、遠い過去や未来、そして永遠を意味する。古着や古布に宿る歴史や文化を取り入れつつも、その枠にとらわれず、時代が巡っても変わらないシンプルな美しさを追求するブランドだ。本作は、東日本大震災の復興支援として始まった岩手県の大槌刺し子プロジェクトのアイテム。40代から80代の女性15名による《SASHIKO GALS》が、東北に伝わる刺し子の技法で一点一点を仕上げている。