「CURRENT COPENHAGEN -コペンハーゲン デザインインテリアの現在地-」開催記念。3人が語る、デンマークの新たな美意識と日本の工芸とのつながり。
デンマークデザインのいまを体感できるポップアップストア「CURRENT COPENHAGEN -コペンハーゲン デザインインテリアの現在地-」が、SELECT by BAYCREW'Sにて2026年8月19日〜9月23日まで開催。話題のブランドに加え、今夏にデンマークの<MOEBE>とのコラボレーション作品を発表するクリエイティブディレクター・デザイナーの辰野しずかさんのプロダクトや、サステナブルな取り組みも展開。この開催を記念して、デザイナーの辰野しずかさん、空間スタイリングを手がける小西亜希子さん、SELECT by BAYCREW'Sセレクターの岡本龍一郎さんによる鼎談を実施。デンマークでいま起きている美意識の変化と、日本の暮らしとの新たな接点について話を聞いた。
『CURRENT COPENHAGEN』開催。
デンマークデザインの今を知る。イベント開催に込めた思いとは?
岡本:デンマークデザインといえば、ハンス・J・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンら巨匠たちが生み出した名作家具が、世界中で愛されていることで知られていますが、近年ではその伝統を受け継ぎながらも、自然素材を生かし職人の手仕事にリスペクトを込めた新たなデザイナーやブランドが注目を集めています。今回はそこへスポットを当てたイベント「CURRENT COPENHAGEN-コペンハーゲン デザインインテリアの現在地-」を開催することになりました。それは日本の文化や工芸にも通じるところがあり、新しいアイデアをもたらしてくれるとともに、私たちの暮らしに自然とフィットするプロダクトが並びます。SNSでの情報発信も行ってきましたが、今回ぜひ店頭で手で触れて、見て、感じていただけたらなと思います。
<Shizuka Tatsuno> × <Moebe>《TSU TSU》。
デンマークデザインと日本工芸の出合い。

岡本:今回発売される<Moebe>とコラボレーションした、ランプシェード《TSU TSU》の制作はいかがでしたか。
辰野:今年のデンマークで開催された 3daysofdesign で発表した際には、多くの方から反響をいただきました。これは岡山の備前焼を用いた照明です。以前、コペンハーゲンで <MOEBE>のデザイナーとお茶をしながら話していたときに、「一緒に何かコラボレーションしよう」と言ってくれたんです。のちに、私がデザインを担当した、岡山の備前焼の窯元・DAIKURA のウォーターカラフェ<hiiro>とのコラボレーションで照明を作りたいとお話をいただきました。ただ、備前焼は個体差が出やすい焼き物なので、形によっては同じものを大量に生産することはあまり得意ではありません。最初に候補となったデザインでは焼き物の成功率が上がらず、彼らに相談したところ、「MOEBE のチューブペンダントをベースにしてはどうか」という提案をいただき、お互いの強みを生かせる形へ発展していきました。ウォーターカラフェと同様にあえて表面に少し引っ掻いたようなテクスチャーを加え、マットでインダストリアルな印象にしています。
岡本:このグレーがかっこいいですよね。でも<Moebe>の皆さんはオレンジの方が好きなんですよね。かっこいいだけでなく、温かみのあるものに惹かれるのでしょうね。
辰野:私も展示会が始まった時に、彼らに「グレーを選択肢に入れなかったのはなぜ?」と聞いてみたんです。すると、照明なので温かみが欲しいからと言っていました。日本は夏が暑いので、必ずしも照明に温かさだけを求めるわけではありませんが、日頃から暮らしの中で温かさを大切にする感覚が根付いているんだと思います。
小西:<ルイスポールセン>などの有名照明ブランドでも、日本では白と黒が一番売れるんです。世界的にも白は人気ですがグレーが出ても、メインではなくスポットで使ったり、廃盤になることも多いみたいですね。
岡本:<ルイスポールセン>の《AJロイヤル》のグレーの Vintageが出ると、みんなマニアは欲しがってね。日本人は逆にグレーが好きな印象ですね。
辰野:展示では、この備前焼の模様について本当に多くの質問を受けました。これは藁を巻いて焼成することで生まれる自然な表情なんです。釉薬を使わず、火や灰の力だけで景色を生み出す備前焼の考え方に、とても興味を持っていただけました。小西:素敵ですよね。金継ぎのような質感にも感じられます。
辰野:そうですね。そういう風合いが珍しかったみたいです。
岡本:藁自体も、日本ならではのものですからね。
自然に寄り添う、デンマークの新しい美意識。
小西:辰野さんが手がけたプロダクトのような、土や砂など自然界にある質感やインダストリアルな素材に、自分たちの美意識と重なるものを感じる人が、今とても増えているように思います。以前は「デンマークデザイン」といえばクラフトマンシップに基づいた良質なデザインの木製家具、というイメージが強かったと思うのですが、 20 年前くらいから少しずつ変わってきましたね。新しいデンマークの価値観を発信した代表的な例が、レストラン<NOMA>やインテリアブランド<HAY>の登場だったのではないかと思っています。
岡本:確かにそうですね。
小西:<HAY>はそれまで培われてきたデザインの力をベースにしながら、カラフルな色彩感覚を取り入れることで、まさにエポックメイキングのような新しさを生み出しました。<NOMA>は、自ら畑で野菜を育て、その土地に根ざした食材や調理法を極限まで追求しただけでなく、料理を盛り付ける器にも、それまでとは異なる価値観を持ち込みました。器の視点で言うと、 それまではブランドが量産する完成度の高いプロダクトか、代々受け継がれるヴィンテージかのどちらかでしたが、土の風合いや人の手の跡が感じられる器を積極的に使ったことで、クラフトそのものの魅力にも光が当たるようになったんです。そこから少量生産のプロダクトや一点ものなど、手仕事の痕跡が感じられるものへと美意識が広がっていきました。そうしたアップデートされた価値観が、今のデンマークには根付いているように感じます。
辰野: 2011年にスタートした<FRAMA>は、 今年の 3daysofdesign でも、日本の民藝や工芸をディスプレイに取り入れていましたよね。日本人として現地でそういう空間を見ると、本当にうれしくなります。
岡本: 日本の素材は割と昔から使われていて、<ハンス・J・ウェグナー>の《GE290》は北海道・小樽のオーク材が使われていたそうです。昔デンマークで出会った方が、「1960年代に船で日本へ渡ったことがある」と話していて。当時からデンマークと日本はお互いのものづくりに惹かれ合う関係だったんだなと思います。
小西:日本で北欧デザインは一時的なトレンドではなく、暮らしの定番として広く定着するようになってきましたよね。時間をかけてそうなったように、今度は民藝や工芸などの日本的な価値観が、北欧の人たちにとっての新しい定番になっていけばいいですね。
辰野:こうした流れがもっと広がっていってほしいですね。
暮らしを更新する、新世代のデンマークブランド。
小西: 特にアルミやスチールを使ったプロダクトは、この数年でかなり増えてきた印象があります。中でも<FRAMA>は人気ですよね。
辰野: アルミはサステナブルな素材としても整合性を持たせやすいんです。再生素材として非常に優秀なので、そうした時代性も反映されているのだと思います。
小西: デンマークの住宅はコントラストを抑えた空間が多いので、アルミの質感がとても映えるんですよね。一方、日本は濃い色のフローリングや黒い窓枠など、色のコントラストが強い住宅も多い。もし取り入れるなら、大きなラグを敷いたり、床材を変えてあげると、ぐっと空間になじむと思います。
辰野: <FRAMA>は家具だけでなく、ハンドクリームやキャンドルなどのプロダクトも人気ですよね。

小西:香りやスキンケアなど、衣・食・住にまつわるプロダクトを幅広く手がけていますね。それぞれを単体の商品としてではなく、暮らしや自分自身と向き合う時間まで含めて提案しているところが魅力的です。デザインやグラフィックの美しさはもちろんですが、その背景にある哲学や精神性まで一貫しているところが、多くの人を惹きつけている理由なのだと思います。

小西:<Moebe>のミラーが登場するまでは、おしゃれな鏡ってなかったですよね。
岡本:本当に。これが最初ですよね。
辰野:<Moebe>のデザインはシンプルを追求していて、シンプルなデザインほど新しさを生み出すのは難しいと思います。それでも<MOEBE>のプロダクトは既視感がなく、新しい価値を感じさせてくれる。それでいて<MOEBE>らしさがきちんとある。本当にすごいと思います。

岡本: デンマークデザインは、愛着を持って長く使うことを前提にものづくりをしています。例えば<TAKT>のチェアはパーツごとに交換できるので、壊れた部分だけを直しながら長く使える。環境にも優しいですし、自分で組み立てることで構造への理解も深まります。
小西: デンマークの展示会で壁紙を施工したときも、現地に住む友人が手伝ってくれて、「まずは自分たちでやってみよう」という考え方が自然にあるんですよね。あと、デンマークでは「完璧であること」だけが美しいという価値観ではない。不完全さも一つの味として受け入れる感覚があります。そうした考え方があるからこそ、手仕事の跡や経年変化にも親しみを感じられるし、美しいものを見極める審美眼にもつながっているのだと思います。
部屋づくりに、正解はいらない。
小西:北欧のインテリア空間を日本の暮らしに取り入れるポイントについて、よく質問をいただくんですが、みなさんはどうですか? まず最初に一つと聞かれたら、自然光を取り入れるという意味合いで、 私はカーテンかなと思いますね。あえてレースカーテンにすることで部屋の印象は変わると思います。もちろん冬場や紫外線対策を重視する方には難しいかもしれませんが。
辰野:私も光の調節はすごく大切だと思うので、照明ですね。うちは賃貸なので、天井照明よりもテーブルランプやフロアランプを取り入れることが多いです。ライティングレールを取り入れると、照明の位置も変えられますし、今はアプリで調光できるものもあります。光を工夫するだけで、部屋の雰囲気や居心地は大きく変わると思います。
岡本:メインの照明だけに頼らず、ワット数を抑えた照明をいくつか散らして使うのもおすすめですね。たくさん置くのが難しい方は、キャンドルを灯すだけでも雰囲気は変わると思います。
小西:最近、若い人たちと話していると、私たちが憧れていた名作家具は価格が上がってしまって、なかなか手が届かなくなっていますよね。ファッションやカルチャーへの感度が高い人でも、高額な家具はどうしても後回しになってしまう。でも今の世代には、手頃な価格でもデザインの良いものが増えていて、その中から自分なりの価値観で選べる。ホームセンターのパーツを組み合わせたり、インダストリアルな雰囲気に仕上げたり、すごく柔軟でかっこいいなと思ったりします。
岡本:高級なインテリアブランドでなくても、有名デザイナーが手がけているものが意外とありますよね。そういう背景を調べて、それぞれをつなげてみるのも面白い。ハイ&ローを楽しむだけじゃなく、ローをどう楽しむか。リユースなどで掘り出し物を探すのもおすすめです。
小西:そう思います。セオリーやロジックはもちろんありますが、自分が感覚的に「いいな」と思ったものを、一つずつ積み重ねていくことが大切ですよね。
辰野:セオリーを意識しすぎて、本当に好きなものを選べなくなるのは少しもったいないと思います。
小西:愛着のあるものを集めていけば、その人にしかできないコーディネートになっていくと思うんです。一つずつ自分の好きなものを見つけていく。本当はみんな違うはずですから。



