“SELECT”な人。アオイヤマダさんは、出会った瞬間、心が踊るものを選ぶ。
ファッションをはじめとするさまざまなカルチャーに精通する人々のリアルボイスをお届けする企画“SELECT”な人。第2回は、自分なりの感覚でまっすぐ“表現”と向き合ってきたアオイヤマダさん。SELECT by BAYCREW’Sの店内を巡りながら、自分らしさとファッションにどんなつながりを感じてきたのか話を聞いた。
誰かや何かの真似ではなく、自分らしさを探してきた。
この日着ていたワンピースには、自身の手描きのイラストが入っていた。一点ものに惹かれ、さらに自分の手を加える。その自然な身のこなしにも、アオイヤマダさんらしい表現の自由さがにじむ。
「もともと服は、小学生の頃から大好きでした。雑誌を読むのがすごく楽しみで。でも、お洋服屋さんにはなかなか行く機会がなかったから、家のクローゼットにあるお母さんやおばあちゃんの服を集めて、自分なりにスタイリングして遊んでいました。近所の畑の真ん中で、雑誌のモデルさんの真似をして写真を撮ったりして。今思うと、ああいう時間が自分を表現しようとする原点だったような気がします」
アオイさんのファッションの入り口は、憧れだった。雑誌の中の世界に惹かれ、まずは真似することから始まった。でも、そこで終わらなかったのがアオイさんらしい。

「最初は真似をするところから始まったファッションへの興味ですが、いくら真似しても、そのものには到達できないことに気がついて。そのギャップをずっと見続けるより、別の道を行ったほうが楽しそうだなと幼いながらに感じて、それからは、自分らしく、直感的な“好き”を素直に信じて過ごしてきました」
その感覚は、服だけのものではない。ダンスや身体表現にも、同じように通っている。

「誰かや何かと比べられない場所へ行くっていうのは、自分が表現すること全般において、ずっと意識してきたことです。正解のある場所に自分を寄せていくというより、自分の感覚が自然に伸びていける場所を探して、信じて進んでいく。自分の感性や違和感に正直でいたいという思いは、ずっと持ち続けてきました。それもあってか、中学生の頃から新品の量産された服より古着が好きで、“一点もの”ならではの唯一無二の存在感に惹かれてきました。その延長で、今日着ているワンピースのように、自分でイラストを手描きすることもよくあります」
服を選ぶ時は、いつだって心が先に動く。
「だから服を選ぶ基準は、理屈抜きで、心が動くかどうかが大事。流行にはあまり興味がありません。たとえば、今日持っている海老のバッグは、まさにそれ。京都の街で一目惚れして買ったもので、ブランドやその背景を調べたわけでもなく、ふらっとウインドーショッピングしていたら目が合って、“わたしを連れて帰って”と言われた気がして、即決でした。だから買い物はいつもパパッと30秒くらい」

その潔さにも、アオイさんらしさがある。そして、その感覚は今に始まったものではない。「昔から甲殻類が好きで、食べたカニの甲羅を洗って部屋に飾っていたくらい」と話すように、心が強く反応するものに昔からまっすぐだった。
SELECT by BAYCREW’Sの店内を巡るなかでも、その感覚は自然に表れていた。
「よくあるショッピングモールって、自分があまり好みじゃない系統のお店だと、ちょっと入りづらくて、通り過ぎてしまうんです。でも、SELECT by BAYCREW’Sはそれぞれのコーナーがぐるっと全部つながっているから、さらっと入って“こういうのもいいかも”って、感性のままショッピングできて、ちょっと冒険したくなる感じも楽しくて好きです」
「メンズもレディースもあるし、靴も眼鏡も、食器もお香もあって、ギャラリーまである。その全部がちゃんとつながっている感じがあるから、服だけじゃなくて、椅子とかラックとか、ディスプレーで使われているものにまで惹かれるんですよね。そういう空間だから、普段なら手に取らないものにも自然と気持ちが向く気がしました」

「中でも気になったのが<タナカ + ザニーム>のショーツ。すごく可愛くて、春の桜の下を駆け抜けたいなって思いました。ベージュのコートも、“こういうのを着られる大人になりたい”って思えて。自分の定番から少し離れたものに惹かれる感覚も、こういう空間だからこそ自然に生まれたのかもしれません」
作り手の背景が、好きに奥行きをくれる。
一方で、アオイさんにとって“好き”は、瞬間のときめきだけでは終わるものではない。
「ひと目で惹かれるものには、爆発力がある。そして、作り手の背景を知ると、もっと深く、長く愛着を持てる気がします」
そう考えるようになったきっかけのひとつが、仕事を通して出会ったデザイナーたちの存在だった。
「初めにきっかけを与えてくれたのが、ファッションデザイナー、皆川明さんでした。作り手と工場の関わり方から服を考える人の存在に触れて、ただ見た目が面白いとか、デザインが新しいとか、そういうことだけじゃなくて、どうすれば工場と手を取り合いながら永続的に服を作り続けられるか、誰とどう関係を結んでいるのかまで含めて、そのこだわりを貫いていることを知ったんです。そこで、服を選ぶ理由がぐっと広がりました。

今日履いているウエスタンブーツもそう。展示会でデザイナーさんから話を聞いて、職人さんが手作業でどんなふうに作っているのか、その背景を知ることで、靴への愛着は深くなる。グリーンのパンツも同じで、デザイナー自らインドを旅し、そこで出会った職人とやり取りしながら作っていることを知って、ただの“もの”ではなくなっていきました。そうやって、服から人の人生を感じられちゃうと、もう涙が溢れますよね。最初は“いいな”って思う、その瞬間の感覚があるんですけど、そこから作り手のことを知ると、もっと長く深く好きでいられる。そんな気がします」

その視点は、服だけに向いているわけではない。
「食べるものも同じなんです。誰が作った野菜なのか、どこの土地で育ったのか。身近なものほど、掘っていくと果てしないレイヤーがある。その豊かさを知ったときに、世界の見え方が変わった気がしました。背景を知ることで長く深く好きになれる。だから、長く受け継がれてきたものには、きちんと理由があるのだと思います」
アオイさんの“自分らしさ”は、そうやって選んできたものの積み重ねでできている。
見たもの、触れたものは、時間をかけて表現の糧になる。
日々触れるアートや本も、アオイさんにとっては大切な蓄積のひとつだ。
「本や写真集も普段見に行きます。何か決まったものを探すというより、いろいろ手に取る感じ。海外に行った時も、その街の小さい本屋さんで写真集を見たりします。言葉がわからなくても伝わってくるものなので。そうやって見たものが、何年か経ってふと思い出されることがあるんです」

「ギャラリーでは、展示の仕方とか、空間のリズムとか、ちょっとした遊びとか。そういう記憶が、あとから自分の表現の糧になっていく気がします」
“型がある”ということ自体が、私には新鮮なこと。
最近は、舞台の稽古の延長で日本舞踊を習い始め、能のような古典芸能にも興味が広がっているという。
「日本舞踊を習ってみると、すごく面白くて。扇子とか着物とかにも興味が出てきて、なんか次の、掘る場所を見つけた感じがあるんです。これまで型にはまってこなかったからこそ、逆に型がすごく輝いて見える。ファッションも同じで、着物やスーツみたいなカチッとしたものにも惹かれるようになりました。ちゃんと歴史が積み重ねられてきたものが、今はすごく気になるんです」

「新しいことをしたい。それなら、後ろを振り返ることも大事なんじゃないかなって最近は思っていて。昔からあるものとか、受け継がれてきた型みたいなものを知ることで、自分の表現もまた先に進めるんじゃないか。そんな気がするんですよね」
そうやってまたひとつ経験を重ねながら、アオイさんらしい表現と装いは、これからも更新されていく。

