モデルのAOIさんと、〈title:〉でアートブック探索。
アーティストたちが自らの関心を深く掘り下げ、写真や絵、テキスト、装丁デザインなどで思い思いに表現するアートブック。その多彩なラインナップを雑貨と共に扱うのが、<SELECT by BAYCREW's>内の〈title:〉だ。アートブックはビギナーだというモデルのAOIさんが、店内を見て回りながら、気に入った本をピックアップした。

店内にずらりと並ぶのは、ジャンルはもちろん、色味もかたちも大きさも、そのどれもが一つひとつ異なる数十冊の本。ここ〈title:〉は、国内外の個性豊かなアートブックを扱う恵比寿のブックショップ〈POST〉とタッグを組んで展開するキュレーション型のポップアップスペースだ。
この店に初めて訪れたというのが、ファッション誌や国内外のメゾンブランドのコレクションで活躍するAOIさん。「そもそも文章を読むのがあまり得意でなくて、本も部分的に読んだり、積読したりするのがほとんど。アートブックとなると、さらなるハードルの高さを感じていました」と話す彼女に対して、出迎えた〈title:〉スタッフのテランさんは「写真や絵などビジュアル中心で構成されることの多いアートブックは、文章を読み込まなくても、ページをパラパラとめくるだけで十分楽しめますよ」と返す。この日は彼の案内のもと、アートブックを読む楽しみを体験してみることとなった。

まずは「手に取りやすい1冊」としてテランさんが紹介したのが、オランダ人のグラフィックデザイナー、クリスチャン・メンデルツマによる『PIG 05049』。一頭の豚を構成する皮や肉、骨、内臓、尻尾などの部位がそれぞれどんな食品やプロダクトに加工されるかを緻密に追跡した1冊だ。「ピンク色のマットな質感の表紙が、そのまま豚の肌みたい! 少し残酷な気もするけど、アイデアがかなり面白いですね」とAOIさんも表情を緩める。
続いて、同じくクリスチャン・メンデルツマがデザイン学校の卒業制作として編纂した『Checked Baggage』を手に取る。テランさんによれば、「ある1週間のうちに、オランダのスキポール空港の保安検査場で〝危険物〟として没収された品物を淡々と記録しています。9.11以降セキュリティの管理が強化されるなかで、一体どこまで武器になるのかを問うテーマになっています」とのこと。「爪切りやナイフも、子供用のフォークまであるんですね」とAOIさん。本には、実際の没収品が付録されているのもユニークな点だ。
迷い猫のポスターに、誰かからの贈り物。
アートブックの種は、日常に潜んでいる。
そして題材の面白さのみならず、その造りや仕掛けにアイデアが詰まっているのもアートブックの醍醐味のひとつ。続いてテランさんは、シューズブランドの〈Camper〉が手がけた作品集『CAMPER 50 (1975-2025) WALK, DON'T RUN』のもとへ誘導した。
「本のページを右開きでパラパラとめくっていくと、ブランドのシューズのビジュアルが展開していって、今度は逆に左開きでめくっていくと、シューズのデザインにインスピレーションを与えたビジュアルイメージが流れていく。ブックデザインの第一人者とも言われているオランダ人デザイナーのイルマ・ボームさんのスタジオが手がけているから、単なるシューズブランドのブランドブックに留まらず、すごく遊び心に溢れた1冊なんです」(テラン)


促されて実際にページをめくってみるAOIさんも、「びっくり……どちらから開くかによって、全然違う1冊になるんですね。手品を見ているような気分です」と興味津々だ。
また、無類の猫好きで、普段は3匹の猫と一緒に暮らしているというAOIさん。彼女にぴったりのアートブックも並んでいた。
「アートブックには動物を題材しているものもたくさんあります。例えば、猫を筆頭に犬や鳥など行方不明になったペットの写真を、街中に貼られたポスターをスキャンすることで集めた『Paul』という写真集や、オランダの著名なグラフィックデザイナーの妻が図鑑や広告、雑誌、切手などから動物のモチーフを切り抜いてスクラップした『Animal Books for Jaap, Zeno, Anna, Julian & Luca (new edition)』などもオススメですよ」(テラン)


その後も、名作映画の食事シーンだけを切り取ったビジュアルブックや、作家が約40年間のうちに人からもらった贈り物だけを集めた写真集、「チェーン」に光を当てたインディペンデント雑誌の特集号など、唯一無二の本の数々を手に取っていく。なかでもとりわけAOIさんの気分が高揚したのが、『Nick Geboers:Træfængslet』と対面した時。デンマークにある歴史的建造物の刑務所にて、絵や文字のようなものがところどころに描かれた壁を撮影した写真集だ。
「私はここ2年ほどでホラー映画が大好きになって、多い時では1日3本も観るほどなんです。だからこのダークな世界観は大好きですね。勝手な妄想ですが、脱獄するためのメモとか、嫌いな人の名前なんかが描いてありそう。ワクワクしますね(笑)」(AOI)


ひと通り店内を巡り、たくさんの本に触れたAOIさん。その過程を通じて、「アートブックのイメージが変わった」と話してくれた。
「もともとアートブックに対して、少し高尚なイメージもあって、構えていた部分があったんです。でも蓋を開けてみれば、空港での没収品然り、迷い猫のポスター然り、題材になるのは、目にしたことがあったり、関わったことがあるようなごく身近なモチーフ。距離がグッと近くなったような気がしますね。その一方で、やっぱりアーティストそれぞれの『そこを切り取るんだ』という視点が面白いし、1冊の本にまとめるまでにとことんやり切る姿勢も素晴らしい。自分の身の回りにも、何らかのアートの種が潜んでいるかも。そう考えて毎日を送ると、日常が一層豊かになる気がします」
AOIさんが選んだ、5冊の気になるアートブック
1、『PIG 05049 [2022 7th edition] 』
クリスチャン・メンデルツマ/著 (Thomas Eyck刊)
製品や原材料の背景に注目してきたアーティスト兼デザイナーの著者が、1頭の豚からつくられるプロダクトを追跡した1冊。タイトルの「05049」は、オランダの商業農場で飼育され、屠殺された実際の豚につけられた番号。「豚のありとあらゆる部位が余すところなく製品化されていることに、衝撃を与えられます」(AOI)。7,920円。
2、『Checked Baggage[2nd and last edition]』
クリスチャン・メンデルツマ/著 (POST刊)
![『Checked Baggage[2nd and last edition]』クリスチャン・メンデルツマ/著 (POST刊)](https://select-by.baycrews.co.jp/wp-content/uploads/2025/08/25-08-080306-1-1440x1440.jpg)
オランダ、スギポール空港で1週間の間に旅行者から没収された品物が網羅されたビジュアルブック。著者が、オランダの名門デザインアカデミー、アイントホーフェンの卒業制作としてまとめた。[2nd and last edition]では、アーティスト兼作家のミヤギフトシさんが翻訳した日本語の序文が添えられている。「空港の没収品を切り取るという視点の面白さが心に残りました」(AOI)。7,920円。
3、『Paul』
アラン・ラパポート/著(Everyedition刊)
行方不明になった猫、犬、鳥などの捜索ポスターに埋め込まれた、プライベートなペットたちのポートレイト部分を集めた写真集。添えられたキュートな名前からは、飼い主が彼らに抱く愛情もうかがえる。「私も保護猫と一緒に暮らしているので、写真に写る行方不明の猫たちに思わず感情移入してしまいます」(AOI)。5,500円。
4、『MacGuffin 11: The Chain』
毎号ひとつのオブジェクトに基づいて考察を深めていくオランダのデザイン&クラフトマガジン『MacGuffin』の第11号。「チェーン」をテーマにしている。「アクセサリーに始まり、バイクのチェーン、プロレスで用いられるチェーン、そして抗議活動の際に人と人とが手を繋いでいる状態に至るまで、“チェーン”という言葉の解釈が誌面を通じてどんどん広がっていくところが面白いです」(AOI)。4,400円。
5、『Nick Geboers: Træfængslet』
ニック・ゲボアーズ/著(Roma Publications刊)
デンマーク・ユトランド半島の歴史的建造物の刑務所内の壁を、ベルギーで活動する写真家が撮影した作品集。木の壁には、傷や絵文字、メッセージなどが彫られている。「ホラー好きにはたまらない本。壁に描かれているモチーフが謎めいているだけに、想像力を駆り立てられます」(AOI)。4,400円。